西本夏生さん/ピアノ/カタルーニャ高等音楽院/スペイン・バルセロナ
音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
西本夏生さんプロフィール
北海道富良野市出身。3歳よりピアノを始め、PTNAピアノコンペティションB1カテゴリー第2位 (2004)、PTNAピアノコンペティションDカテゴリー第1位 (2007)、横浜国際音楽コンクールにてスペイン音楽賞(2008)、ブレスト国際ピアノコンクール(フランス)にて第1等メダル(2011)など数々の賞を受賞。これまでにピアノを中村明美、宮澤功行、木内泰子、迫昭嘉、Pierre Reachの各氏に、室内楽を東誠三、有森博、上森祥平、Oriol Algueroの各氏に、音楽教育を山下薫子氏に師事。2009年〜2010年7月日本女子大学非常勤助手。現在、スペイン・カタルーニャ高等音楽院に在籍中。ソロ活動に加えて、ピアノデュオpiaNA(松本あすか&西本夏生)としても幅広く演奏活動を行っている。早稲田大学卒業。東京藝術大学大学院修了。
-まずは簡単な自己紹介をお願いします。
西本 ピアノを始めたのは3歳でした。それから高校生までしっかりピアノを弾き続けて、大学では一時ピアノからちょっと離れて心理学を専攻して、その後大学院から音楽教育とピアノを専門にし始めました。
-コンクールなどは小さい頃から出られていたんですか。
西本 そうですね。高校を卒業するまで結構色んなのに出ましたね。大学生の頃にも、私は学部時代には音大生ではなかったのですが、「コンクールには音大生が出られない部門っていうのもあるんだ!」ということを知って、色んな人に出会えて面白そうという気持ちで受けたりしていました。
-今回、留学をされたきっかけは?
西本 小さい頃から、漠然と留学したいなという気持ちはあったんです。子供の頃ずっと習いにいっていた先生の門下では、かなり多くの人が留学されていたので、子供心に憧れのような気持ちもありました。でも、どこか自分にとっては雲の上の話なような気もしていて。でも、芸大に入って夢中で音楽を学ぶうちに、それが自分の中でだんだん現実的なものになっていって、そうなってくると、そこからは実現に向けて動き出せたって感じです。スペインにピアノで留学される方ってあんまりいないですが、もともとスペインものがとても好きで、それを今後自分の主要レパートリーとして深めていきたいと思ったこと、それからピエール・レアク先生に出会えたこと全てがスペイン行きを決めたことのきっかけだったと思います。
-ほかの国は考えなかったんですか?
西本 最初はいろいろ考えたんですけどね。でも、スペインものを自分のものにしたいなぁという気持ちがあって。スペインの音楽って特徴があるので、やっぱりその土地に行って学べることが多いだろうなと思いました。それから、レアク先生はフランスでも教えられているんですが、フランスには年齢制限があって(笑)スペインの学校にはそれがなかったんです。そんなことも含めて色々とスムーズにいったので、スペインとは縁があるのかもなと思いました。
-スペインに行く前に、短期留学や海外旅行は経験されていたんですか?
西本 大学時代に、カナダに講習会に行ったりはしていました。実は留学を決めるまでスペインには行った事はなかったんです。でもきっと自分の気質には合うだろうという変な自信があって(笑)。一応、行こうと決めてから一度だけ下見に行きました。でも他の国に行く用事があったののついでだったので、滞在したのはほぼ1日という感じでした。それでもその1日の滞在で「やっぱりいい!」と思ったので、やっぱりスペインに行こうという気持ちは揺らがなかったのですが。
-実際行ってみて、想像と現実のギャップはありましたか?
西本 前回行ったときは夏で・・・それでギャップがあったのは、意外と冬が寒いってことですね。なんとなく、ずっと暖かいイメージだったので。もうここに数ヶ月住んでいますが、それでもなんか「燃えるような火と砂漠とフラメンコの大地!」というイメージは消えないですね。実際には、バルセロナは都会なので、そこら中で火柱が立っている、とかはないんですけどね(笑)
-現地の人々はどんな感じなんですか?
西本 陽気で人なつっこくて、明るいです。いつもぱーっとしている。よく笑い、よく怒り、よくしゃべる。でも、すごく誇り高くて優しい。そんな感じです。
-スペインに音楽留学をする人は少ないのですが、受験などはどのようなものですか?
西本 私の在籍しているコースは学部卒業後の研究科のようなコースで、現地に赴いての試験はありません。願書を出すときに、選考として自分の演奏をDVDで送る必要はあったのですが、現地に出向いて試験を受ける必要はなかったんです。その代わり、事前に先生とコンタクトを取れていないと選考を受けられない感じかもしれないですね。レアク先生は、その点すごく親切に面倒見てくださいました。私が先生と出会い、留学を決めたのは2009年の3月なんですけど、実際に渡航したのは、1年半経ってからの2010年9月なんです。でもその間も、ずっと先生とは連絡を取り合って、私もヨーロッパで開かれる先生の講習会などに参加したりしていました。
-試験など大変なことはなかったんですね。
西本 私は大学院を卒業しているので、この学部卒業後のコースに試験がなくても入学できたわけですが、学部から入ろうとするとちょっと大変みたいです。カタルーニャ州の公立の学校なので、受験の言語がカタルーニャ語なのと、それから聞いた話では、スペインで何年間かconservatorioに通っていたという事実がないと受験できないんだそうです。詳しくはわからないのですが。でも日本人で学部から入った方も今までにいらっしゃいますよ。
-西本さんのコースは、語学力は求められなかったんですね。では、手続きなどで、苦労されたことはありましたか?
西本 ビザを取るのが大変でしたね。ドイツなどと違って、先に住む家が決まっていたりしないとならないので、スペインのビザを取るのは結構大変です。あとは、HPも学校の掲示板もカタルーニャ語で書かれていたのが大変でした。手続きの時は、英語やスペイン語があるんですが、それほど親切ではないです。事務の方とのやりとりは、ほとんど英語でしたが、一斉送信で送られてくる時などは、カタルーニャ語のみで連絡がきたりしたこともあったので。
-そういうサイトをご覧になるときは、どうやって読んだのですか?
西本 ひたすらカタルーニャ語をスペイン語に変換して読みました。スペイン語は勉強していたので、なんとか。
-実際、留学の準備期間はどのくらいだったんですか?
西本 決めてから1年半くらいですね。でも、実際先生を探していた期間なんかも含めると、スペインに行こうと決めてからは2-3年はかかったように思います。私の場合は、全部一からだったので。
-他の学校は考えられたんですか?
西本 学校というよりも、先生で決めたかったので、そういう感じではなかったです。
-学校には、日本人の方はどのくらいいらっしゃるんですか?
西本 学生は、現在は私ともう一人コルネットを勉強している方がいます。あと、伴奏ピアニストで働いている方が一人いらっしゃるそうです。
-学校全体ではどのくらい生徒が在籍しているんですか?
西本 詳しい数は分かりませんが、クラシック系の楽器以外にも、フラメンコギターやスペインの伝統音楽のコース、ポップスやジャズのコースなどもあるので何百人かはいるかと思います。
-日本人以外の留学生は多いんですか?
西本 スペイン語を話せることもあって南米の人が多いですね。アジア人は少なくて、中国人や韓国人も全然見かけないですね。
-街にも少ないんでしょうか?
西本 街にはけっこういますよ。中国人は特に多いと思います。
-学校の雰囲気はどんな感じですか?
西本 出来てまだ10年の、新しい学校なんですよ。コンサートホールも3つくらい有り、バルセロナの中では有名な建物の中にあって、雰囲気はとても良いですよ。事務の人はわりと適当で、スペイン的ですけど(笑)。日本人が少ないので、顔を覚えられていることもあり、みんな声をかけてくれます。アットホームと言えばアットホームですね。
-日本と違うな、と思うところはありますか?
西本 外国だから当たり前なんですけど、先生と話すときにいわゆる敬語がないのは最初ちょっと変な感じがしました。心もとないというか。逆に同じだなと思うのは、練習室が、常に争奪戦だということです。スペイン人って、もう少しのんびりしているかと思っていたんですが、みんなとても意欲的に練習していて、いつも練習室は取り合いですね。
-みなさん熱心なんですね。
西本 熱心ですよ。その点では日本人と近いです。スペイン人って、もっとのんびりやっているかと思っていましたけど。でも、土日は夕方くらいまであんまり人いませんけどね(笑)
-学習態度などで、日本人と違うところはありますか?
西本 どんな音楽を作りたいかって言う意見をみんな強く持っていて、もしそのときにあんまり弾けてなかったとしても、そういうことは遠慮しないで言いますね。特に室内楽のときなど、自分の意見をお互いにばんばん言い合っています。あとは、何でも楽しそうですよね。スペイン人って、適当なイメージもあるかと思うんですが、音楽やっている人は結構きちんとしていますよ。時間にたいしてもそこまでルーズな人がいなくて、合わせなんかをするときにはむしろ私より早く来ていたりしますし、レッスンも大体時間通りに始まります。
-現地の人とのコミュニケーションで、日本とは違うことはありますか?
西本 とにかくみんな人なつっこいし、よくしゃべりますね。マスタークラスに出ると、全然知らない人が、わざわざ寄ってきて「良かったよ」って言ってくれたり。知っている人ならありうることだけど、全然知らない人なところがすごいなって。
-語学に関して、意思疎通するのに苦労したことはありますか?
西本 例えば室内楽をやっているときに「2小節前からもう一度」とか、そんなことでも、最初は全然分からなくて苦労しましたね。でも、それはだんだん慣れてくるので、なんとかなります。
-スペイン以外の人と交流することは?
西本 学校では、フランス人とか、東欧出身の人なんかがいるので、スペイン語やら英語やらで話します。あとは南米出身の友達たちですね。南米の人たちって、特にあったかい感じがします。
-いろんな国の人とコミュニケーションする時の、コツはありますか?
西本 細かいことは気にしないことですね(笑)。時間とか、これ約束だったよなってことで、もしうまく行かなくてもあんまり気にしないようにするというか。スペインではよく予定がころころ変わるので、臨機応変に。頭を柔らかく持っておいて、何事にもあまりこだわらないようにすることです。
-学校の外でコンサートとかには出たりしましたか?
西本 これまでに一度、違う学校の演奏会に誘っていただいて弾きました。何度かお話をいただいたこともあったんですが、予定が合わなかったりして、まだあんまりそういう機会はないですね。
-留学されてから1日のスケジュールはどんな感じですか?
西本 ピアノ中心に1日の全てが動いている感じです。今は、グランドピアノのある家に住むことができたので、家でずっと弾いていることが多いです。でもこもりっきりになるのもいやなので、太陽を浴びにお散歩したり、色々な場所に出かけたりするようにもしています。土日は、学校の練習室もあまり混雑していないので、予定がなければだいたいお昼くらいからずっと学校で弾いています。
-週末、お友だちと遊んだりはしますか?
西本 はい。スペインでは夜も外で楽器の音を出すのが平気なので、この間も夜に公園でギター弾きの友達たちとセッションして遊んだりしていました。私はそういうときはピアニカを吹いて遊んでいます。スペインは、金曜日と土曜日の夜の遊び方がすごくて、全部にはついていけないくらいです。みんなかなりの大人でもわりと朝までわいわいやっていますから。びっくりしたのが、地下鉄も土曜日は朝まで一日動いているんですよ。どうもそれは「遊んだみんなが帰れるように」なんですね(笑)日本だと、土日の方が終電早いじゃないですか。それは全く逆ですね。
-すごいですね。西本さんは、今、ホームステイをされているんですか?
西本 いえ、ルームシェアです。スペインは一つのピソをルームシェアしていることが多いんですよね。
-どうやって探したんですか?
西本 最初に住んだおうちは日本からインターネットで探して。その後引っ越したのですが、そのときは学校の掲示板に貼ってあったものから見つけました。
-割とすぐ決まりましたか?
西本 はい。多分私はラッキーだったと思います。音楽をやっている人は、うるさいと言われて引っ越さざるを得ないことも多いので。うまくおうちに恵まれなくて、年に3〜4回引っ越すはめになったこともあったよ!と言っていた方もいました。
-家を借りる手続きは面倒くさくなかったですか?
西本 ルームシェアの場合、不動産屋さんを通さなくても契約できるんですよ。誰かが持っている部屋をシェアする形なので、その部屋のオーナーと直接交渉するだけ。なので、面倒くさくはないですね。もちろん不動産屋さんを通す方法もありますが。実際、学生で日本のようにアパートを自分名義で契約して一人で住んでいる人は少ないんじゃないかな。一人で住むような大きさの部屋っていうのが中々ないような感じがします。
-スペインは、物価は安いのでしょうか?
西本 自炊をすれば、日本で一人暮らしをするよりも、安く生活できるんじゃないかと思います。野菜や肉などの普通の食材は安いので、普通にしていても、日本で住むのの2/3くらいにはなると思います。
-食材以外は安くないんですか?
西本 特別安くはないと思います。でも、生活するのに必要な金額としては、東京に住んでいた人であれば、かなり安く感じるでしょうね。
-スペインに留学する場合、日本でしっかり準備すべきことは何でしょうか?
西本 やはり言葉でしょうね。スペイン語と、あと英語も。
-英語を使う機会は多いんですか?
西本 留学生同士だと、英語を使うことの方が多いですからね。あと、違う国から来た先生とお話しするときも。なので、英語ができて損なことはないと思います。言葉に関してはみなさん同じことを言うと思いますが、やっぱり大事ですよね。あと準備しておくことは・・・健康と気力!これも大事です。なんかこう、へにょってなってると、この国のテンションにはあっさり負けそうになります(笑)
-スペインに留学して一番良かったことは何でしょう?
西本 実際の景色を見たりして、その雰囲気を知れたことですね。私はスペインものが好きでここに来たこともあるので、それは本当によかったです。「スペインなもの」に囲まれていますからね。そして、その中で自然と「ああ、だからこういう音楽になるんだなぁ」ってスッと理解できた瞬間もありました。こういうのはやっぱり来てみないと分からなかったことですね。ヨーロッパの中でも、ちょっとスペインは特殊な文化を持っていると思いますし。
-留学して自分が変わったことや、成長したと思うことはありますか?西本さんは、もともと行動力がありそうですが(笑)。
西本 一人の時間が増えましたね。こう言うと暗い感じですけど(笑)、自分と向き合う時間が増えたと言うか。あとは、日本語ほど達者にしゃべられないわけだから、下手な言い訳をしたり弱音を吐いたりができないという(笑)。なので、どんな状況になっても大丈夫なようにと準備をしたり、どんな状況にも食らいついていく強さみたいなのは自然と身に付いてきた気がします。それから、日本の良さに逆に気づきました。外国に住んでいると、「わたしは日本人だ」って言うのを、何度も口にするじゃないですか。それを言っていると、自分は日本人であるということを意識するようになるんですよ。学校にも日本人が少ないので、「私、ここにいると・・日本代表!?」みたいな気持ちになりますから(笑)、日本人として恥ずかしくない演奏をしよう!!とか思ったり。
-なるほど。さて、西本さんの今後の進路を教えてください。
西本 スペインでの留学終了後は、日本に帰って、日本を拠点に活動しようと思っているんですが、拠点は日本にあってもずっとワールドワイドな視野を持っていたいなと思っています。ピアニストとしての活動の他にも、音楽教育の実践、研究活動もやっていきたいですね。それから、ソロ以外にもpiaNAというピアノデュオを組んでいるので、そっちも帰国後は本格始動したいなと思っています。色々、やりたいことは山ほどです!
-これから留学しようとしている人に、アドバイスをお願いします。
西本 特にスペインに関しては、ピアノ留学をすることに関して情報が非常に少ないのですが、それにくじけず頑張ってください。でも、思いがけないところに、出会いがあったりもするので、留学したいと思って動き続けていれば、必ず実現できます!私が苦労した分、これからスペインに留学を考えている人には、わたしに協力できることがあれば・・・と思っています。
-今日は貴重なお話を聞かせていただいて、ありがとうございました!