原知恵子さん/イタリア語留学/イタリア・ペルージャ

音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。

 

ピアニストの先生と
ピアニストの先生と

原知恵子さんプロフィール
東京音楽大学音楽学部声楽演奏家コース卒業後、同大学大学院声楽専攻修了。第5回日本演奏家コンクール大学の部 奨励賞、第5回大阪国際コンクール大学の部第3位(1位・2位なし)、第23回江戸川区新人演奏会にオーディション合格し、演奏会出演。江戸川区主催「サロンコンサート」出演、婦人民主クラブ主催「クリスマスコンサート」「ジョイントコンサート」出演、その他様々なコンサートに出演。これまでに、中澤桂・大川隆子・釜洞祐子・吉田恭子・横山修司の各氏に師事。2009年4月よりイタリア・ペルージャにて語学留学中。



-まずは簡単なご経歴を教えてください。

原  東京音楽大学を卒業して、同大学院に進みました。その後アルバイトや派遣の仕事をしながら音楽活動をして、去年の4月にイタリアのペルージャに来ました。

-会社勤めをされていたんですね。

原  フリーターのような感じですけど。コンサートや音楽活動もしていましたので。

-どのようなお仕事をされていたんですか?

原  テレマーケティングなどもしましたし、ここに来る前の2年間は、発展途上国に鉄道や道路を作る建設コンサルタント会社の事務として働いていました。

学校のクラスメイトと各国料理を持ち寄ってのパーティで
学校のクラスメイトと各国料理を持ち寄ってのパーティ

-面白そうですね。

原  仕事も面白かったですし、とても良くしていただきました。

-声楽は、ずっとイタリアやドイツのものが中心ですか?

原  大学にいた頃は、ドイツ、日本、イタリアの曲などを歌っていました。大学院の修了演奏はドイツ歌曲でした。卒業してからは、イタリアものが多いですね。先生がイタリアの曲を中心に教えてくださる方なので。

-今はイタリアにいらっしゃると言うことですが、演奏活動などはされていますか?

原  全くの留学ですね。しかも、音楽留学ではなく語学留学です。

-そうなんですか!それはまたなぜ?

原  音楽活動だけでは生活していくのは難しいですよね。両親の理解もあって、20代のうちは、音楽を続けさせてもらっているんですけど、早く自立しなくてはと思っていて。なので、大学院を卒業してから、さらに音楽で留学するということは考えていなかったんです。そこで、音楽以外に自分に何ができるかを考えたときに、イタリア語に行き着いたんです。声楽をやる上で、イタリア語を理解することが重要になって来たのもきっかけですね。読んで意味を調べて歌うことは出来るんですけど、イタリア語の独特の響きや、リズムを勉強するほうがいいと思いまして。語学を勉強するのは好きでしたし、イタリア語も興味がありましたので。とにかく、これを仕事に活かせるものにしようと思いペルージャに来ました。

-大学院まで卒業されていると、その先も勉強を続けていくっていうのは難しいですか?

原  オペラ団体に入るっていう方法もあるんですけど、そこも結局、お金を払ってまた専門学校に行くような感じなんですね。そのお金があるなら、思い切って留学してみようかな、と。
 

同居人の実家へお邪魔して、家族のみんなと
同居人の実家へお邪魔して、家族のみんなと

-イタリア語を学ばれているということですけど、レッスンは週5日ですか?

原  はい。クラスのレベルによっても授業数は違いますけど基本は週5日です。レベルが6段階あって、私は、最初は上から3番目のクラスから始めたのですけど、こういう下のクラスは、文法中心にやっていくのでそんなに授業はないんです。文法が週に12時間、会話が4時間程度。ワンターム3ヶ月なんですが、一番上のクラスだけが6ヶ月なんです。今、私はそのクラスにいて、あと3ヶ月というところです。上の2つのクラスは、イタリアの文化や歴史という授業が入ってくるので、週に28時間くらいは授業があります。

-文化の授業などは、準備というか、調べものをしたりすることもあるんですよね?

原  はい。音楽は大丈夫なんですけど、歴史や文学などは大変です。ヨーロッパ圏の人は基礎知識がありますが、私はゼロからなので。インターネットを駆使して、いろいろ調べものはしています。

-将来、音楽活動をされる上でも刺激になりそうですね。

原  直接関わってこなくても、美術・音楽・文学は、常に関係していますからね。

-それにしても、中級クラスから始まったのはすごいですね。

原  いえいえ、こちらに来たばかりの時は全然ダメでしたよ。日本で勉強していたといっても話す機会はありませんでしたから。

ペルージャでオペラ鑑賞
ペルージャでオペラ鑑賞

-日本でも文法などは勉強されていたんですよね。

原  はい、学校でも授業がありましたし、卒業してからもイタリア語の学校に通っていました。

-やはりそういう準備をしておくべきですか?

原  そうですね、ゼロの状態で来てしまうと、まず生活するのが大変なので。旅行会話が出来るくらいには、語学は勉強してからの方がいいと思います。基礎の部分に時間をかけると、せっかくの時間が無駄になると思うので。

-なるほど。今はどういうところに住んでいるんですか。

原  学生アパートというか、共同アパートです。ここに来る前に、インターネットで不動産屋に頼んで決めました。私はイタリアに住む以上、イタリア人と暮らしたかったので、その希望を出しました。それで今の家を紹介してもらったんですけど、イタリア人の女の子3人と住んでいます。

-楽しそうですね!

原  はい。すごくラッキーでした。家もきれいだし、みんなすごくいい子たちなので。

-その方々は学生さんですか?

原  国立ペルージャ大学に通う子たちです。経済・生物などみんな専攻はバラバラなんですけど、ひとり語学系の勉強をしている子がいて、よく助けてもらっています。

レストランで先生とクラスメイトとのディナー
レストランで先生とクラスメイトとのディナー

-最初から意思の疎通はうまくいきましたか?

原  必要最低限のことは言えたんですけど、それ以外の日常的なおしゃべりになると、最初はなかなか入りにくかったですね。テンポもすごく速いし。でも、だんだんその人のしゃべり方に慣れてきて、向こうも慣れてくれたのもあって、一緒に買い物に行こうとか、誘ってくれるようになってきました。

-話す機会がないと覚えませんもんね。
 
原  語学留学で、イタリア人の友達を作るのは難しいじゃないですか。なので、家でもずっとイタリア語を話さなければいけない環境に自分を置けたのは、とても良かったと思います。学校で習っているだけじゃ、絶対にここまで来れなかったと思います。

-今の学校はどこの国の人の方が多いんですか?

原  この学校は、イタリアの国立大学が、外国人に向けて語学や文化を教えるために作った学校なので、世界中から学生が集まっています。EU圏の学生は、短期で来ている人が多いですね。あと、大学と中国の間で交換留学をさせるプログラムがあるみたいで、中国人専用のクラスがあります。

-ほかの学生さんと話す時もイタリア語ですか?

原  下のクラスだと、英語だったりします。あと、中国人は固まって中国語でしゃべってますね。日本人も同じです。今のクラスでは、日本人は私一人だけなので、私は必然的にイタリア語だけですね。

-語学留学するからには、その国の言語を話すべきですよね。その点、原さんはイタリア語漬けの生活を自ら選んだということですよね。素晴らしいです。

原  私も日本人が周りにいたら集まってしまうと思うし。やはり、この生活で良かったなって思いますね。

-細かい話ですけど、みんなでご飯を作ったりはしますか?

原  はい。基本は自分のものは自分で作るんですけど、みんな私よりもお料理が上手なので、よく作ってもらっています(笑)。ごくたまに私も日本の料理を作ってあげることがあるんですけど。イタリア人はトマトソース・サラミ・チーズ・ワインなど、なんでも自分の地元のものを一番と思って食べるんです。帰省したり彼女たちの両親が来る度に、食料をごっそり持って来るので、それをご馳走になったりします。

-本場の料理が楽しめるんですね!イタリアだと、やはりパスタですか?

両親がイタリアに来た時にアパートで
両親がイタリアに来た時にアパートで

原  パスタは多いですけど、一日に2回はないですよ。昼はパスタで夜は肉料理とかが普通です。

-日本食を作って食べたりしますか?

原  はい、材料を集めるのが難しいですけど。中国人が経営しているところで、おしょうゆやうどんを買ったりします。お好み焼きやカレー、焼うどんなどを作りました。

-やっぱり、日本の味が恋しくなりますよね。

原  恋しくなりますね。日本の食材は、来る時にたくさん持って来ましたし、先日も両親に送ってもらってたりして、けっこう充実してはいるんですけど(笑)。

-生活費は、月にどのくらいかかりますか?

原  家賃なども入れて、だいたい10万円くらいでしょうか。家賃がそんなに高くないので。光熱費はシェアですしね。

-シェアしたほうが安上がりですし、いい経験も出来て良いですよね。

原  こちらでは、ルームシェアが基本です。一人住まいもありますけど、料金が高いので、大抵みんなシェアしています。

-今、ペルージャにお住まいということですが、オペラを観に行ったりはしますか?

原  ここからだとフィレンツェまで電車で約2時間、ローマまでは3時間くらいで行けるんです。なので、そこに行った時は、オペラにも行きますね。泊りがけでヴェローナまで行って、野外オペラを観たりもしました。ペルージャでのオペラ公演は、年に一回しかないんですよ。それは残念なんですけど、オペラ以外のコンサートは頻繁にあります。

-声楽に触れる機会もあるんですね。ちなみに、生のオペラはいかがでしたか?

原  やっぱりすごく素敵でしたね。日本で観るのとは違うし、安い料金で気軽に観にいけるのが魅力ですね。あと、観ている人たちもノリが違うというか、心から楽しんでいて、その雰囲気も味わえるので、すごく楽しいです。

-劇場も大きいんですか?

原  基本的にイタリアの歌劇場は日本のように大きくはないです。馬蹄型の劇場で内装やシャンデリアもすごく素敵な劇場です。

-安く観られるんですか?

原  ペルージャで観た時は、10ユーロでした。普通料金は15ユーロなんですけど、学生料金があるので。

-それはいいですね!たまに歌いたくなったりしないんですか?

書籍出版記念のセレモニーで歌唱中
書籍出版記念のセレモニーで歌唱中

原  大学の授業で音楽史の授業があって、そこに教えに来ている先生がペルージャ音大のピアノの先生なんですよ。その先生が、学校のホールを使ってピアノを弾き、私たちに歌わせてくれるんです。そこで、たまたま先生が、私の声を気に入ってくださって。何度かコンサートを企画してくださったりしたんです。あと、学校の校舎が貴族の宮殿を使っているため、この建物の歴史に関する本が出版されたとき、セレモニーがあったんですが、そこで歌わせてもらったりもしました。なので、本当に私はラッキーだったんですが、歌う機会はあるんです。まだ帰国するまでに2回ほどコンサートの予定があります。

-それは素敵な縁ですね!

原  あとは、大学にある合唱団でソプラノが少ないから、ソプラノの声を厚くするために助けてくれないかって言われたりして(笑)。12月には合唱団の演奏旅行に付き添って南イタリアのバーリまで行ったりもしました。

-充実してますね!

原  本当に充実しています。

-今年の3月以降は、日本に帰国されるんですか?

原  3月の末日までテストがあって、バタバタ帰国するのはいやなので、滞在としては4月末までのつもりです。

-イタリアで音楽活動と言うわけではなく、とりあえず帰国なんですね。

原  音楽活動は考えていなくて、きちんとした仕事があれば、イタリアに残りたいと思っています。難しいことですが、今色々な人に話を聴いたりしていて可能性を模索している最中です。何もしないと後悔すると思うので、自分が納得できるところまで挑戦して帰るつもりです。

-イタリアは原さんに合っていましたか?

原  そうですね、生活のリズムや考え方とか、日本とは全然違うので、来たばかりのときは戸惑いましたけど、私の性格にはイタリアの方が合っているかなと思います。電車が遅れても待たされても別にいいやみたいな感じで(笑)。食べ物も好きですしね。

合唱団の演奏旅行で
合唱団の演奏旅行で

-それでも最初は戸惑ったんですね。

原  はい。イタリア人と一緒に生活していく上でけっこう戸惑いましたよ。最初に言ってたこととことが、いつも間にか変わってたりとか。キチンキチンとはしてないですからね。この前言ってたのと違う!っていちいち気にしてると、ストレスたまりますよ。

-手続きなどをしていても、適当だという話は良く聞きますよね。

原  学校の事務も警察なんかも、大体いいかげんですね。行くたびに言われることが違うし…。慣れるといつものことだって思えますけど。

-環境に自分を溶け込ませていくのは大事ですね。

原  イヤになってしまう人は1ヶ月でイヤになるみたいです。イタリアは好きだけど、生活は出来ないって。

-外国に住む場合は、うまく対応しないとストレスたまりますもんね。

原  そうですね。根底はしっかりとした考えを持って、細かいところは状況に対応出来るようにしていたほうがいいかもしれないですね。自分の中に一本柱がないと、いろんな方向に流されてしまうこともあるので・・・。麻薬とかも簡単に手に入りますから、自分ををしっかり持っていないと、流されてしまうと思います。

-信念は強く持つべきですね。イタリア語はもう問題なく話せるんですか?

原  日常会話は、だいたい大丈夫です。

-英語であれば、日本の学校での積み重ねがありますけど、イタリア語はなかなか基盤がないので、難しそうですけど。

原  響きだとか、イタリア語自体が好きだったというのもあるかもしれないですね。最初は私も英語が話したくて勉強していましたが、発音は英語のほうが難しいんです。ただイタリア語の文法は英語の何倍も大変です。

-自分に合う言語っていうのもあるのかもしれませんね。さて、そもそも原さんが声楽を勉強しようとしたきっかけは何だったんですか?

原  長くなりますが・・・。母親が音大卒だった関係もあり、私もピアノをやったりしていたんですが、興味はなかったんです。高校に入るときまでは、医学部に行こうと思っていましたし 。それが、中学卒業くらいの時に、テレビで宝塚を観て一気に魅了されてしまったんです。そこから、どんどんあの世界に入り込んでしまい、ついには宝塚歌劇団に入りたい!という所まで行ってしまったんです。親には大反対されたんですが、母の声楽の先生に、「やりたいようにやったらいい。でも本当にやりたいなら、明日からレッスンやり始めなさい」って言われたんです。そこで「じゃあ始めます」って宝塚の予備校に通い始めたんです(笑)。今までダンスなんかやったことなかったのに。

お家で手作りディナー
お家で手作りディナー

-最初は宝塚志望だったんですか!?

原  はい。ところが、その予備校の優秀な先輩たちが、全員試験に落ちちゃったのを見て、あんな優秀な人たちがだめなら、私にはとうてい無理だろうって、妙に納得しちゃったんです。そして、ちょうどそのとき、今度は劇団四季のミュージカルを観る機会があって。劇団四季は、ダンス部隊と歌部隊に分かれているんですよね。そして歌部隊には、音大出身の人も多いんです。ミュージカル自体が大好きだったので「こっちなら出来るかもしれない!それなら音大に行かなければ!」と思い、音大受験の勉強を始めました。

-ミュージカル歌手志望に変わったわけですね。

原  はい、ですから、東京音大に入った当初はクラシックに興味がなかったんです。私はミュージカルをやりたいんだからって。でも、大学3年のときに声楽演奏家コースのオーディションに受かり、本格的にオペラの勉強をしていくうちに、クラシックって面白いんだなって思うようになったんです。そして、実は4年生の時に、四季のオーディションに受かったんですけど、大学院に行くか四季に行くかすごく迷ったんです。そして、「今ここでミュージカルをやったら、クラシックの声にはもう戻れないだろうな」と思いまして。本当にやりたかったら大学院を出てからでも出来るだろうと。

-クラシック一本ではなく、変化して来ているんですね。だから視野が広いんですね。それにしても、宝塚にあこがれる気持ち、分かりますよ。

原  あれで大きく変わりましたね(笑)。

-きっかけって人それぞれですよね。今、ミュージカルに対する気持ちは?

原  コンサートなどで歌う機会があれば歌いたいですけど、ミュージカルはリズム感やセンスも必要なので難しいですよね。私もミュージカルはすごく好きですけど、心からミュージカルに惚れている人じゃないと続かないと思います。大変な世界ですからね。

-今後は、音楽を続けていかれるんですか?

原  はい、そうですね。音楽は音楽で続けていって、あとはどういう仕事をしていくかっていうのが問題ですね。イタリア語だけだと日本では活かすのは難しいので、やはり英語も使えるようにしないと・・・。どの仕事も英語があってこそと言う感じなので。

-次から次へと目標があって素晴らしいですね。

原  実際に活かしていかないといけないから、どうやってこの先につなげていこうかいつも迷っています。

-いろんな可能性を考えられるのは素晴らしいことですよ。

原  音楽だけでやっていくのはすごく大変なので、他に可能性を見つけていかないといけませんから。音楽をやっている多くの方は、おうちも裕福で、いつも親の援助が得られる感じですよね。私もそういう家庭で育ってきたので、甘えることは可能なんですが、私はそれがいつも重荷になっていて。ちゃんと自立するためにはどうしたらいいんだろうと悩んでいます。

アパートの自室からの眺め
アパートの自室からの眺め

-今やっていることは、将来を作ってくれると思いますよ。原さんの今の夢は何ですか?

原  イタリアで仕事をするか、いつもイタリアと関わっていけるような仕事が出来ればいいなと思っています。

-イタリアとの出会いは、大きかったんですね。応援しております。では、海外で勉強したい人にアドバイスをお願いします。

原  まずは思い切りが大切だと思います。行きたいなら思い切って挑戦してみるべきだと思います。あとは、きちんと下準備をしてから来ることも大切。自分でできることはなるべく自分の力でする、というのも大事だと思います。

-今日は本当にありがとうございました!

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