岩田真実さん/ピアノ/ゲオルグ・シュタインシャーデン教授/オーストリア/ザルツブルク
4歳よりピアノを始める。
これまでに三宅万里、阿部千鶴各氏に師事。
現在ソロや伴奏など、様々なコンサート活動を行っている。
--それでは簡単な自己紹介からお願いいたします。
岩田様:ピアノを始めたのは4歳からで、同志社女子大学の音楽科を卒業しました。その後、音楽教室の講師をしたり、最近ではカフェや披露宴、結婚式で演奏したりしてきました。
--そうなんですね。ピアノを始めたきっかけを教えていただけますか。
岩田様:母親がピアノを習っていまして、何気なく「やろっか」の一言でピアノ教室に通い始めました。
--留学を決めたきっかけは、どんなことだったんでしょうか。
岩田様:周りから「留学したほうがいいよ」という話を聞いていて、いつか自分もできたらいいなというふうには思っていたんですが、去年に入って両親が1週間ほどヨーロッパ旅行に行ったんです。そのときの写真を見せてもらって、やっぱり私も留学したいなという気になって、その気持ちが高まっているときに、アナザースカイという番組で、新妻聖子さんがゲストで出ていたんです。その回で「新しい未知の世界へ行くのは怖いけども、それでも勇気を出して飛び出したときに想像もつかなかった世界を見せてくれるよ」と、未来は自分が思う以上に計り知れなくて、とっても面白いというお話をされていたんです。その言葉が私の中で響いたんです。
--留学に行かれる前までは、講習会や海外の先生のレッスンに参加したことはおありだったんですか。
岩田様:全くないですし、あまり準備もできずに、もう行きたいという気持ちだけで行きました。
--海外に行かれたことはあったんですか。
岩田様:ないんですよ。初めてで、一人の海外留学でした。
--そうだったんですね。では事前に情報収集をしたりとか、周りの人に聞いたり調べたりということもされたんですか。
岩田様:そうですね。アンドビジョンさんのホームページに掲載されているインタビュー記事や、講習会に行った感想などをずっと読んでいました。
--ありがとうございます。講習会に行かれる方の中には、先生選ぶ際、この先生に習いたいということがもともとなければ、どうやって先生を選べばいいか分からないという方も結構おられるのですが、岩田さんはどうしてこの先生を受講しようと思われたんですか。
岩田様:私の場合、行った場所がザルツブルクだったので、そこでプライベートレッスンで教えていただける先生がお一人しかいなくて、選択肢がなかったんです。
--そうだったんですね。ではザルツブルクに行きたいというのがまずおありで、そこから先生を探されたということですか。
岩田様:はい。私はザルツブルクに行きたいということが1番にありました。
--そうなんですね。ザルツブルクに行きたいというのはどういう理由だったのですか。
岩田様:留学したいという気持ちが強くなったときに、どこの場所がいいかなってインターネットでいろいろ探していたらザルツブルクが出てきて、街並や写真を見て、直感でここに行きたいと思ったんです。それから両親がヨーロッパ旅行に行った際にザルツブルクにも行っていて、その写真を見せてもらったときに、間違いないなと直感的に感じました。
--じゃあもう、縁があったという感じですね。
岩田様:もう本当にそうだと思います。
--ほかの国は考えられたりしなかったんですか。もう悩むこともなくという感じでしたか。
岩田様:そうですね。悩むということはなかったですね。ザルツに着いたときも、「ああ、やっぱり自分の直観に従って良かったな」と思えました。
--それで先生がお一人しかおられないから、この先生しかないということになって、その先生はどういう方だったんですか。
岩田様:ゲオルグ・シュタインシャーデンという、モーツァルテウムの表彰をされている方だったんです。いい意味でオーストリア人という感じで、いつもニコニコされていて、本当にアットホームなレッスンでした。
--そうなんですか。優しい方でしたか。
岩田様:すごく優しい方でした。最後のレッスンのときに、「これで最後のレッスンになるけど、全部で11回だったけど、一緒に勉強ができて僕も楽しかったよ、ありがとう」と言ってくれたので、本当に感動して泣きそうになりました。
--素敵ですね。そのレッスンはずっとそんな雰囲気でされていたんですか。
岩田様:そうですね。怒られることもなく、訂正されるときもとっても優しかったですね。弾き方の指導でも、私の腕を鍵盤に見立てて、先生が「こういう弾き方で弾いて」と分かりやすく教えてくださいました。
--分かりやすそうですね。コミュニケーションはご自分でされていたんですか。通訳の方はいらっしゃいましたか。
岩田様:コミュニケーションは通訳の方にお願いしていました。
--そうだったんですね。やっぱり通訳の方がいらっしゃるほうがいいなと思いますか。
岩田様:そうですね。私の場合、ドイツ語も英語もできないので、通訳の方がいてくださることですごく安心でした。
--そうだったんですね。レッスンが11回というのは結構長いと思うのですが、1回何分くらいで、内容はどういう感じで進んでいったのでしょうか。
岩田様:基本的にレッスンは1回1時間なんですが、ゲオルグ先生は時間に縛られるのがお嫌いな方でしたので、初回は1時間半以上レッスンがあって、その後のレッスンの時間はばらばらでした。
--すごくいい先生ですね。
岩田様:いい意味できっちりしてないというのが、私の性格にも合っていました。
--そうだったんですね。レッスンでは、ずっとお持ちになった楽曲をレッスンされていたんですか。
岩田様:そうですね。大体1回1曲をとおしてから、その曲の時代背景や楽譜に書いてある内容などの説明をしていただきました。
--すごく勉強になりそうですね。練習は大体どこでされていたんですか。
岩田様:練習はすべて宿泊先のゲストハウスでしていました。
--そうだったんですね。どれくらい練習できましたか。
岩田様:平日は3時間、休日は3時間予約をしていただいて、基本的にはその時間で練習していたんですけど、受付に予約表があって、空いている時間は自由に使っていいというかたちでした。2月は大学が休みで、結構皆さん自分の国に帰られていて、割と練習室が空いていたのでたくさん練習できました。
--たまに取り合いになるみたいな話も聞きますが、大丈夫でしたか。
岩田様:そうですね。取り合いになったり予約時間を間違えて書かれたりしていて、自分が思っていた時間に行ったら、「この時間はもう自分の時間だから帰って」と言われて、泣きながら帰ったこともありました。
--そんなこと言われたら言い返せないですもんね。
岩田様:自分がしゃべれる言葉でぽつぽつはしゃべっていたんですけど、それでもはっきりと向こうの方はしゃべられるので、太刀打ちできませんでした。
--そうなんですね。レッスン以外の時間はどういうことをされていたんですか。
岩田様:平日は毎日語学学校に行っていました。私は英語の勉強をしたんですけど、そこでの先生もすごくいい先生で、ホームパーティーしてくださったりしました。
--そうなんですか。すごくラッキーでしたね。ザルツブルクで、語学学校もレッスンも全部されていたんですか。
岩田様:はい。すべてザルツブルクです。
--そうですか。ずっとザルツブルクに行きたいとおっしゃっていたので、実際に行ってみると街はどんな感じでしたか。
--素敵ですね。先生はいつもニコニコしていらしたとおっしゃっていたんですが、ザルツブルクの人はみんなそんな感じなんですか。
岩田様:そうですね。皆さん本当にフレンドリーで、お土産屋さんに行くときも現地の言葉で挨拶をしたら、「君、ドイツ語しゃべれるの?」と話しかけてくれて、そこから仲良くなって、有名なモーツァルトチョコをプレゼントしてくれました。そんな出会いがたくさんありましたね。
--いい街ですね。直観に従って行ってみて、理想と全然変わらなかったというか、がっかりしたことはなかったんですね。
岩田様:そうですね。食事が本当に合わなかったんです。
--それは結構大きいですよね。どんなところが合わなかったんですか。
岩田様:何を食べてもおいしいと感じなかったんです。
--味が合わなかったんですか。
岩田様:そうですね。なので、日本の調味料やお米などを送ってもらって、自炊していました。
--外食でもおいしくないという感じですか
岩田様:外食は食事代がすごく高くて、おいしいんですけど、お腹いっぱい食べるとものすごいお金をとられるという感じでした。
--例えばどれくらいのお値段ですか。
岩田様:そうですね。大体メインとドリンク1杯で20ユーロぐらいでした。
--そうなんですね。やっぱりヨーロッパは高いですね。自炊されていたということだったんですが、ゲストハウスはどういう設備だったんですか。ホテルみたいな感じのゲストハウスなのか、いろんな人と同居する感じでしたか。
岩田様:ホテルみたいなタイプのゲストハウスでしたね。5階まであって、1階から4階までが部屋になっているんですが、ワンフロアずつ共同のキッチンがありました。そこが夜の10時まで自由に使えるので、そこで料理をしていました。
--お手洗いやシャワーなどはお部屋にあったんですか。
岩田様:はい。ホテルタイプのゲストハウスなので、週に1回お掃除の方に来ていただいていたので、とっても楽でした。
--ではゲストハウスに泊まりながら、午前中に語学学校に行って、夕方からレッスンという感じでしたか。
岩田様:レッスンは基本的に午前中にありました。午後からはその大学の方のレッスンがずっと入っていたみたいで、語学学校はお昼からでした。
--では一日の流れとしては、宿泊先からレッスンに行って、レッスンから語学学校に行くという感じだったんですね。その3つは近いところにあったんですか。
岩田様:はい、とても近いです。歩いて大学からは5分ほどで、語学学校までも10分ほどでした。中心街だったので住みやすかったです。
--それは便利ですね。語学学校やレッスン、宿泊先で海外の人たちと話す機会はありましたか。お友達はできたりしましたか。
岩田様:語学学校はプライベートレッスンだったので、先生以外の方と会う機会がなくて、最初は友達がなかなかできなかったんですけど、旅行先で友達になったりしました。2カ月目になると少し英語を使ってしゃべれるようになり、友達もつくることができましたね。
--そうですか。それは現地の方とお友達になったんですか。それともそちらの方も留学や旅行などで来られていたんですか。
岩田様:現地の方は、先ほどのお土産屋さんや宿泊施設で働いている方でしたね。
--海外の方と上手くコミュニケーションをするコツというか、付き合うのに気を付けられたことはありますか。
岩田様:とりあえず挨拶はきちんとすることと、いつも笑顔でいること、しっかり話を聞いていますよというアピールをすることですかね。あとは、当たり前のことなんですが、自分がされて嫌なことはしないようにして、人が喜ぶことをしようと心がけていました。
--そうなんですね。語学や食事のことでいろいろ困ったこともあったと思うのですが、ほかにこれは困ったなということはありましたか。
岩田様:ヨーロッパの方は大体英語はしゃべれるって聞いていたので、ドイツ語は勉強しなくていいと思っていたんですけど、お掃除の方が全く英語をしゃべれない方で、英語で何か伝えようとすると「English No」と言われました。結構その言葉が刺さって、もっとちゃんと現地の言葉を勉強しないと駄目だなと思って、そこから勉強しようと思いました。でもそう言ってもらったおかげで、しゃべれるように頑張ろうと思えたので、すごくいい機会でした。別のお掃除の方も、全然英語がしゃべれない方だったのですが、私がドイツ語をしゃべれないということを分かってくださっていて、「頑張って、英語で明日掃除に行くよ」と、言ってくれているのを見て、申し訳なく思いました。しゃべれるように頑張ろうと思ったのは、その二つがきっかけです。
--そうだったんですか。今回留学に行かれて、レッスンを受講されて、いろんな経験されたと思うんですが、レッスン受講して良かったと思われたのはどういう瞬間ですか。
岩田様:正直、今まではすごく自分に自信がなくて、どうせ私は上手くないからと思って、ちょっと不安な気持ちで行ったんです。でも初回のレッスンで、先生から「心配事はある?」と聞かれて、正直に話をしたら、「全然、そんなに怖がらなくていいよ。音楽は楽しいものだからね」と優しく言ってくださって、トラウマから解放されたような感じでした。先生のレッスンはすべて楽しかったですし、原点に戻れたと言いますか、音楽は楽しいんだなと改めて思えたことがすごく良かったなと思います。
--それは帰国されてからも思われていますか。
岩田様:そうですね。今も思いますし、「演奏も変わったね」と言われますね。
--それは嬉しいですね。日本と留学先で大きく違うことは何でしたか。
岩田様:皆さんアットホームでフレンドリーなところですね。例えばお店に入るときに絶対に挨拶するのが向こうの決まりで、挨拶をして「ありがとう」と言って帰る、そういうコミュニケーションがしっかりできているところがいいなと思いました。
--日本ではなかなかないですもんね。音楽的なところでも日本と留学先では結構違いましたか。
岩田様:そうですね。先生が生徒目線で、同じ目線でしゃべってくれることですかね。
--日本だとどうしても先生は偉い人というか、上下関係がありますもんね。
岩田様:それでちょっとおびえていた部分もあって、先生に「レッスンが怖いんです」とお伝えしたら、向こうでは全くそんなこともなかったので、食事以外はストレスフリーな生活でした。
--食事結構大きいですもんね。音楽性の違いというものもあるんですか。
岩田様:そうですね。先生によっては違うと思いますが、全然違いましたね。よく先生から教えていただいたことは、「一つ一つを言葉だと思って大切に弾いてね」ということでした。言葉は単語が組み合わさって一つの文章になるので、日本語でもどの言葉を強調して言うかで、全く別の意味になったり印象が変わったりすることがあるじゃないですか。例えば天気の雨とお菓子の飴は全然意味が違いますよね。
--そうですね。文脈で判断しないといけないですよね。
岩田様:「それは音楽でも言えることだよ」というふうに教わりました。日本人の留学生も「ドイツ語を理解できるようになって、ドイツの作曲家の作品のフレージングが自然とできるようになった」と言っていたので、言語は音楽と密接に結びついているんだなと感じました。
--確かにずっと日本語でやっているので、日本では気づけないですよね。留学前にしっかりやっておいたほうが良かったなと思っておられることで、これから留学行く人にアドバイスなどはありますか。
岩田様:皆さんおっしゃることだと思いますが、やっぱり語学の勉強はしたほうがいいと思います。最悪、単語単語でくみ取ってくれますが、自分の言いたいことが伝えられないもどかしさが常にありました。親切にされたのに「ありがとう」しか言えなくて、もっと伝えたいのに伝わらない、伝え方が分からない、それがもどかしかったです。
--分かりました。ほかに留学する方や迷っている方へのアドバイスはありませんか。
岩田様:そうですね。留学はものすごく大きな決断だと思うんですよね。私も実際行動に移すまでにすごく時間がかかって、でもやっぱりいざ行ってみたらなんとかなるんですよ。なので、行きたいという気持ちを貫いて頑張ってもらいたいなと思いますね。絶対短期間でも自分のためになるので、行く目的や向こうで何を学びたいかなど、自分の芯をしっかり持っていけば、絶対なんとかなると思います。
--ありがとうございます。帰ってこられて、これからの目標や進路で考えていることがあれば、ぜひ教えていただけますか。
岩田様:そうですね。まず語学は続けようと思っています。
--英語もドイツ語もですか。
岩田様:はい。それから、向こうでは空港や施設に自由に弾けるピアノが置いてあることが多く、そこで何回か私も弾いていたんです。そのときにクラシックやヒーリング音楽のようなものも弾いていたら、立ち止まって聴いてくださる方がいて、弾き終わった後に「もう終わっちゃうの?」、「もっと弾いてほしい」、「弾いてくれてありがとう」と言ってくださって、すごく嬉しかったんです。なので、そういった気軽に音楽を楽しんでいただけるような活動をずっと続けていけたらなと思っています。日本国内だけじゃなくて、海外でもそういった活動ができたらいいなと思います。
--ではまた海外にも行きたいなと思っていらっしゃるんですか。
岩田様:はい。この3カ月で、また会いたいと思う人とたくさん出会うことができたので、必ず行きたいです。
--分かりました。またご質問させていただくこともあるかもしれませんが、そのときはぜひよろしくお願いいたします。
岩田様:こちらこそお願いいたします。
--本日は貴重なお時間いただいて、ありがとうございました。
岩田様:こちらこそありがとうございました。