S・Wさん/インターナショナルサマーアカデミー(ISA)
S・Wさん プロフィール12歳よりクラリネットを始める。2014年より都内の音楽大学に入学。学内のソロ室内楽オーディションに合格し出演、高校時代より都内ジュニアオーケストラ等で演奏。学内の吹奏楽ではコンサートマスターを務める。
-これまでのご経験や音楽のご経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか。
S・W様:小学校に入る前からバイオリンを始めました。小学校に入ってからはピアノ始めて、小学3年先でトランペットを始めました。そのあと中学校1年生からクラリネットを部活で始めて、高校時代にはジュニアオーケストラに所属するようになり、音大に行こうと思うようになってので、高校3年間今の大学の教授につきました。今は大学3年生です。
-今回の講習会に参加される前に、海外の講習会に参加されたことはありましたか。
S・W様:チューリヒ音楽大学のサマーカレッジみたいなものに行きました。それは1週間ほどでした。
-それは何かきっかけがあったんですか。
S・W様:奨学金を出してくれる団体があって、そこのオーディションを受けて、もらえることになったのがきっかけです。飛行機代だけは自費だったんですけど、受講料が免除だったので行こうと思いました。特にそこの講習会に行きたいということではなく、ちょっと行ってみようという思いから行きました。
-今回ウィーンの講習会に行きたいと思われた理由やきっかけはなんですか。
S・W様:それは確実に、「講師の方」ですね。1週間ずつ交代に2名の先生に見ていただける形式の講習会で、1週目がヨハネス・グマインダー先生、2週目がシャロン・カム先生でした。どちらの先生も素晴らしい方だったのですが、特に2週目のシャロン・カム先生が、自分が本当に一番大好きな方だったので。シャロン・カム先生は女性のクラリネット奏者で、ドイツで活動している方で、フランスの楽器を使っているんです。アカデミーでしか教えてもらえる機会がないので、どうしても一度教えていただきたくて、今回参加しようと思いました。中学校の頃から大ファンで、一番好きな先生です。
-その先生に実際会われたときの感動はすごかったんじゃないですか。
S・W様:そうですね。感動して最初のレッスンのあと「あなたは世界一の奏者だと僕は思うんです」とか「あなたのCDを全部持っています」みたいなことを英語で伝えました。先生もとっても喜ばれて「それは嬉しいわ」と言ってくれました。
-イベント自体のお話もお伺いしたいんですけど、参加者の方はどれぐらいの規模でいらっしゃいましたか。
S・W様:大体どこの楽器も10人ぐらいだったと思います。
-1人の先生に10人ということですか。
S・W様:そうですね。管楽器と弦楽器は別の講習会場で、ピアノと弦楽器と管楽器がそれぞれ3つに分かれていました。それぞれの演奏会があるときに、それぞれの練習会場から集まって会うみたいな感じでしたね。ピアノのほうにも日本人の方がいたので、各楽器が集まったときに知り合いになりました。
-他に参加されている方はどういう方でしたか。
S・W様:大学生ももちろんいるんですけど、基本的にフランスの国立音楽院やジュリアードなどのいろんな一流大学を卒業してから来たという方が多かったです。クラリネットでは最年少の人が僕より1個下だったんですけど、それでもジュリアードの優秀な学生だったりしたので、どの楽器もレベルが高く、27歳、28歳の人も割といたので、25歳ぐらいが平均だったと思います。
-では「音大を卒業してすぐ」ぐらいの方が多かったんですね。
-結構刺激的だったんじゃないですか。
S・W様:そうですね。ちょっと劣等感を感じるぐらいの環境で、とても刺激になりましたね。
-ちなみにその講習会のスケジュールでは、6回ぐらいプライベートレッスンがあって、他もいろんなワークショップがあると伺っていたんですけど、1日のざっくりとしたスケジュールはどんな感じだったんですか。
S・W様:1日のスケジュールは、プライベートのレッスンが基本で、先生の1対1のレッスンがありました。1週目はこの先生が、2週目はこの先生が来てという感じでした。2日に1回レッスンがあって、さらに自分で参加するワークショップがあるんですけど、このワークショップは基本的に完全に自由というか、参加してもしなくても大丈夫みたいな感じのものでした。事前に参加申し込みを受け付けていたはずなんですけど、現地に行ってから参加するのをやっぱりやめるという方もいて、結構自由な感じでした。最初にチェックインをして受付をしたときに「ワークショップをどうするか」と聞かれて、例えば僕の友人は「申し込んでなかったけど申し込んでいいですか」と聞いたら、「いいよ、いいよ」と言われて“室内楽”のワークショップに申し込みました。先生がその場で室内楽のチームを組んで、曲を決めて楽譜が届いて・・・という感じでした。僕自身は基本的に毎日1人で練習してレッスンに向かうというスタンスで、ワークショップにあまり時間を割かず、レッスンに集中していました。
-スタッフはどういう人がいましたが。
S・W様:とてもフレンドリーで、ISAの事務局には、基本的に毎年やってる方々で、音楽大学の事務局員の方々がやっていることが多くて、もちろん主体はウィーン国立音楽大学の事務局員をやっている人が主体なんですけど、普段から音楽に触れている人なんだということが僕たちにも伝わるぐらいちゃんと理解があるし、とても親身になっていろんなことを手伝ってくれました。「この楽譜のパート譜がないんだけど、どこかにない?」と聞いたら、「じゃあ、パソコンで検索してあげるよ」と言って調べてくれたりとか、ご飯も毎日あるんですけど、そこで一緒に食べていました。
-受講生の方たちは全体で60人ぐらいですよね。
-スタッフの方はそれに対して何人ぐらいましたか。
S・W様:管楽器は1人でした。もう1人運転手の方がいました。練習会場はホテルから5分ぐらいで、学校から歩いて行けたんですけど、演奏会に行くとかレセプションに行くというときは、その2人が迎えに来てくれました。でもレセプションとかに行くと事務局員の方がたくさんいました。それから事務局主催のコンクールがあるんです。今年はマルティーニコンペティションといって、マルティーニが作曲したものを使ってコンクールをしていました。あとは室内楽のメンバーで受けるコンクールが4つぐらいありました。それもまた申し込み制で自由参加なので、3分の1ぐらいの学生が申し込んでいました。
-それはオープンではなくて受講生のみによるコンクールだったんですか。
S・W様:そうですね。受講生の中でのコンクールでした。
-ここで選ばれたら何か特典とかがあるんですか。
S・W様:20万とか30万の賞金がもらえます。すごい額だったのでびっくりしました。向こうの現地の方々にとっては、むしろプラ
スになるぐらいの賞金だと思います。
-そのコンクールはやっぱりレベルが高いんですか。
S・W様:そうですね。レベルは高かったと思います。もう1つコンペティションがあって、コンチェルトオーディションというのがあるんですけど、それはアンドビジョンさんに「受ける」と言って練習して行ったんですけど、それだけは初日にあって、いきなりオーディションだったんです。それにうかった人が出るコンチェルトが受講期間中にあります。クラリネットは4、5人がそれを受けていました。
-コンチェルトはいつあったんですか。
S・W様:2週目のはじめのほうにあったと思います。
-発表の機会というのはそのコンチェルトのオーディションにうかるか、もしくはコンペティションとして自分でエントリーする以外にないという感じですか。
S・W様:いえ、あります。3日に1回ぐらい、水曜日のコンサートと金曜日のコンサートというのがあって、楽器によって出られる条件が違っていて、先生から「今週の水曜日のコンサートに出なさい」とか、「金曜日のコンサートに出なさい」と言って推薦される場合もありますし、クラリネットの場合は先生に「先生、コンサート出たいんだけど、どう?」と聞いて、立候補制でした。楽器によってそれはさまざまだったと思います。そのコンサートは夜にするので先生も見に来てくれて、管楽器の受講生も割と全員出ていました。先生によって全然違うので、来年先生が変わってからその基準もまた変わると思います。
-参加者の方は、どこの国の方が多かったというのはありましたか。
S・W様:ドイツやフランスが多くて、あとはエストニアだったりフィンランドだったり、アメリカ、ハンガリーからもいました。でもオーストリアやドイツが多くて、次にフランスが多かったです。アジア圏の人は割と少なかったですが、日本人が全部で4人いたので、全然苦ではなかったんですけど、日本人が全くいないであの2週間を過ごすとなると、多分大変だったと思います。向こうではどっぷり英語ですし、先生との打ち合わせ等も全部英語で行われますので、それで1人で練習となると精神的にきつかったなと思います。
-今回行くきっかけとなった先生のお話をお伺いしたいと思うんですけど、シャロン・カム先生は実際どんなレッスンをされる方でしたか。
S・W様:その先生自体、教えるということにすごく興味を持っていて、もちろんどこかで先生になりたいという思いはあったそうなんです。世界的なソリストで、彼女のようになりたいという人はとても多くいると思うんですけど、ドイツでは教鞭を取れないので、とても生徒に愛情ぶかく教えてくださいました。クラリネットとしてのレッスンももちろん素晴らしかったんですけど、演奏家としてこうすべきだとか、演奏家としての振る舞いを教えてくれたり、技術的にもすごく混みいったレッスンをしてくれたので、技術的にも音楽的にもとても充実したレッスンでした。
-素晴らしいですね。他の方が受けられているものは聴講されましたか。
S・W様:はい。
-相手によって多少は先生も、工夫や教え方を変えられたりすると思うですけど、先生の得意なジャンルとか教え方のセオリーとかというのはあったんですか。
S・W様:日本で音大生とかコンクールとかでメジャーな曲があるんですけど、それを持って行ったときに、先生が知らない曲がありました。先生はイスラエル出身で、アメリカのジュリアードで学んで、今ドイツに住んでいるという方なので、もちろんドイツものが得意だったりとかフランスが得意だったりとかするんですけど、1週目に来たヨハネスゲバインダーという先生は、どっちかというとドイツもののほうが得意で教えられるというのはあったと思うんです。セオリーというか、結構向こうの人が言うのは、息の使い方とか体の使い方とかでした。
-日本で受けたレッスンとここは違うなと思ったところを教えていただきたいんですけど。
S・W様:日本はこうしなければならないという教え方だと思うんですけど、向こうは本当にいい音が出ていればどういう過程でも、手段でもいいからという教え方でした。さらに言うと、「その答えが、あなたが納得していればいいんだけど、こういう吹き方もあるのよ」と答えすらも強制しないレッスンなんですよ。
-それは、新鮮ですね。
S・W様:そうですね。答え自体を「あなたはどう思う?」と先生側が聞いてくれるのは、向こうはそういうものだということをあらかじめ知ってから向こうに行ったので、やっぱりそういうもんだよねという感じだったんですけど、出ている音が良ければ、音の切り方とか日本では注意されることを、演奏スタイルが自由だったので、すごく自由だなと思いました。
-それはやっぱり今まで日本で受けてきたことと違うなと思ったことですよね。
S・W様:そうですね。その方程式まで指定されないとできない人は伸びないと思うんですけど、ある意味多種多様な人材が、音楽家としてその方法のほうが育つんじゃないかなと思えるレッスンでした。
-ちなみに最後は閉会セレモニーとかがありましたか。
S・W様:なかったですね。最後のレッスンが終わったらすぐ修了証を持って帰ってしまう人がいれば、僕たちみたいにレッスンが終わって次の日に帰るという人もいました。あの人はいつの間にかいないということをもありました。もちろん最後のレセプションが最終日の夜にあったんですけど、その時点であの人帰ったの?みたいな人もいて、割と自由でした。
-練習室というのはどこら辺にありましたか。結構近いところにありましたか。
S・W様:近いところにありました。そもそもホテルも管楽器の人しか泊まっていないので、ホテルの部屋でいくらでも音出しができますし、時間制限は朝の8時から夜の10時までという決まりはあったんですが、ホテルの中で昼休み休憩12時から1時半ぐらいまでは音を出してはいけないということになっていました。お昼休みは休もうという、向こうの方の習慣なんだと思います。レッスンを行っているところは歩いて5分ぐらいの所でした。
-今回レッスンの回数が多くて、残った時間は練習に費やされたということですが、それ以外の時間はちょっと街をぶらっとするなどありましたか。
S・W様:本当にど田舎なので、近くにコンビニ程度のスーパーがあるぐらいでした。そこも月曜日はやっていませんし、木曜日は午前中だけだったりしたので、夕方の5時には閉まってしまったりしていました。歩いて40分ぐらいのところには大きいスーパーがあったり、車通りの多い所に着くんですけど、そこまで行くのにあぜ道を取ったりするので、景色が綺麗で、スーパーまで日本人の友達と歩いて散歩しに行ったり、川遊びをしたりしました。ピアノ科に日本人の参加者がいてその方と友達になったので、そちらのホテルの近くのレストランでご飯を食べました。その帰りにピアノ科のホテルを覗いたんですけど、管楽器のホテルと全然違ってすごくいい待遇だったのでびっくりしました。
-ご自身のホテルの質などは問題なく過ごせましたか。
S・W様:そうですね。バスタオルは2日に1回交換でシーツ、枕カバーは2週間交換なしでした。
-お風呂やトイレは、普通にそれぞれの部屋についていましたか。
S・W様:そうですね。普通にトイレとシャワーがついているんですけど、ラッキーだとバスタブもついているという感じでした。
1部屋で2人から3人の部屋で、僕は2人部屋でした。
-ルームメイトはどんな方でしたか。
S・W様:韓国出身の方で、チューリヒでホルンを学んでいる学生でした。僕より2つ年上なので、どこかの音楽大学を出てチューリヒに行っているんだと思います。
-参加者全体的に年齢が離れているというわけではなかったので、結構打ち解けるのも早かったんじゃないですか。
S・W様:そうですね。日本のように敬語があるわけではないので、英語で話していると年齢の上下はあんまり関係なく会話ができました。僕もそこまで英語力があるわけではないですけど、もちろんルームメイトとはくだらない話とかをして仲良くなりましたし、楽器の話はなかったんですけど、クラリネットの受講生とは「レッスンはどうだった?」とか「あの先生はこういうところは良くて、こうだったよね」とか、「普段どこで学んでいるの?」とか、そういう話をお互いに情報交換しました。
-会話は、スムーズに出来ましたか?
S・W様:そうですね。もう少し英語をすらすらしゃべれたらもっと深い話ができたのかなと思います。聞くのは理解できたんですけど、話すのが6割、7割ぐらいしか出てこなくて、英語がもっと話せたらもっと楽しかっただろうなと思いました。
-ちなみに留学中に困ったことがあれば、今後の参考としてお伺いしたいんですけど。
S・W様:事前に「2曲くらい用意しておくのが一般的」とアンドビジョンさんから聞いていたんですけども、足りないかもと自分でも感じていて。それで行ってみた感想からすると、ISAの場合は6曲は必要でした。最低でも4曲ぐらいはあったほうがいいと思います。やっぱり2人の先生がいるので、多く曲があったほうがいいと思います。
-すごく参考になります。他に意外だったとか困ったことはあったでしょうか。
S・W様:僕たちのホテルにはジャグジーがあって、水着を持っていけば誰でもジャグジーに浸かれたので、水着を持って行けば良かったなと思いました。オーストリアには温泉も多いそうなので、温泉に入る文化があるみたいです。
-面白いですね!改めて今回のご留学を振り返ってみて、成長したとか変わったなと思うところはありますか。
S・W様:やっぱりプロセスに縛りがないと感じたことが一番の成長ですね。結果が良ければ全て良しみたいな演奏スタイルを、それぞれ持っていないといけないと思いました。
-今回のレベルアップというか成長したことで、これから先の渡辺様がトライしたいことはありますか。
S・W様:実際大学を卒業したら留学しようと思っていたんです。その場に行ってもちろん留学したいなと思う気持ちも半分だったんですけど、今は思っていたよりそこまでですね。レッスンになると話している英語は全部分かるんですよ。日本語をしゃべっているかのように何を言っているのか分かるんです。それを受けてみて、そういうレッスンのスタイルの違いはあったけれど、スタイルが自由だからといってそれに合わせてそれに甘んじてすごく雑になってしまっている人もたくさんいました。日本人はスタイルを確立しているからこそ繊細で、毎回安定した演奏ができるということがあるので、向こうに行くことも必要だけど、日本で学ぶことも何も悪くないなと思ってしまったことは事実です。向こうに行く良さと悪さと、それぞれ理解して帰ってきたという感じです。
-改めて自分の積み重ねてきたものを深く理解されたということですね。
S・W様:そうですね。ただ単にがむしゃらに海外に行きたいとかいう思いではなくて、冷静になぜ海外に行きたいのかとか、海外に行く必要がないのかとかを考える良いきっかけになりました。僕は実際今、卒業して留学するかどうか迷っていて、日本の大学院に行くという選択肢が逆に生まれました。
-最後になるんですけども、今後ISAに行きたいなと興味を持っていらっしゃる方にぜひアドバイスをいただければと思います。
S・W様:やっぱり向こうの音楽サマーアカデミーの中でも相当優秀なもので、初めて参加する人が、誰も日本人もいない状況でこのアカデミーに行くのは、僕はあまりお勧めしたくないですね。やっぱり悪い面も良い面も見えて帰っては来られないと思いますし、すごく嫌な面だけ見て帰ってしまうと思います。向こうにはそんなアカデミーはいくつもいろんな学校が主催していたりするので、もし初めて行くのであれば、やっぱり今回のような半月とかではなくて、1週間とか5日間程度のものもありますし、もう少し他のアカデミーを選ぶことをお勧めしたいなと思います。もしISAに行きたいというのであれば、他のアカデミーを経験してとか、友人がもう1人一緒に行くとか、そういう状況で行かないと、ちょっと集中できないと思いますね。向こうでも次世代に活躍する人たちが揃っているので、語学のハンデを持った状態で行くとなると、相当な劣等感を抱いて帰ってきてしまうと思うんです。それを分かって行ったほうがいいと思います。
-すごく参考になります。本日はお忙しいところありがとうございました。
S・W様:こちらこそ、ありがとうございました。