柴田昌宜さん/指揮/モーツァルテウム音楽大学夏期国際音楽アカデミー/オーストリア・ザルツブルグ

音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。

 

受講生と:最終日の演奏会前に受講生全員で
受講生と:最終日の演奏会前に受講生全員で

柴田昌宜さんプロフィール
大阪音楽大学卒業(トランペット専攻)同大学専攻科修了(指揮専攻)。2003年陸上自衛隊に一般幹部候補生(指揮者)として入隊。中央音楽隊に配属され全国音楽隊員に対する教育を担当する。2005年より東部方面音楽隊音楽班長を務め、国家的な式典や各種の演奏会を指揮する。この間モーツァルテウム音楽大学夏期国際音楽アカデミーに参加してディプロマを取得。2007年8月、第1混成団音楽隊隊長(那覇)に着任し、沖縄県下全域において演奏活動の任に当たっている。


―  現在までの略歴を教えて下さい。

柴田 大阪音大にトランペット専攻で入りました。その後、専攻科の指揮専攻に進み、卒業後、陸上自衛隊に指揮者として入隊しました。中央音楽隊から東部方面音楽隊を経て、ザルツブルグの講習会から帰国後の8月から沖縄の第一混成団音楽隊隊長として、沖縄に赴任しています。

―  この講習会に参加されたきっかけを教えてください。

柴田 もともと、海外のマスタークラスに参加してみたいという希望がありまして、色々と探してはいたのです。以前から、モーツァルテウム音楽院夏期国際音楽アカデミーか、ウィーン国立音大の講習会に行ってみたかったのですが、今年8月に転勤することが決まりまして、7月中に参加できるものをと探したら、モーツァルテウムが時期的に合っていました。

―  どのような理由で今回の講習会をお選びになったのですか?

柴田 やはりオーストリアということと、先生ですね。

―  先生は以前からご存知だったのですか?

柴田 ペーター・ギュルケという有名な指揮者で、ベートーベンのシンフォニーなどを校訂している人です。ペーター・ギュルケ版というのが出ているくらい、すごい権威者なので、是非にとは思っていました。
 

本番前日のレッスン風景:アフリカからの参加者が神がかり的な演奏をしました。
本番前日のレッスン風景:アフリカからの参加者が神がかり的な演奏をしました。

―  レッスンの雰囲気はいかがでしたか?

柴田 かなり丁寧でした。日本人みたいでした。本当に基礎から細かく教えていただけました。

―  振り方に関することもありましたか?

柴田 そうですね、振り方に関することもありましたし、音楽的な作り方に関することもかなり緻密に指導されました。

―  特に印象に残っている事などありますか?

柴田 1番衝撃だったのは、「振りすぎだ」と言われたことでした。こちらからしたら、全部に指示を出して、丁寧に振っているつもりだったのですが、先生は、「これでは音楽の流れを止めてしまう」と言われました。

―  それを受けて何か自分の中で変わられたことはあります?

柴田 そうですね、もちろん、音楽の流れを重視するようになりました。

―  レッスンは何語で受講されましたか?

柴田 オーケストラがドイツ・カンマー・アカデミーというオケでしたので、先生はドイツ語と英語を使い分けてらっしゃいました。僕に対しては英語で指導してくださいました。

―  事前に語学の勉強はされていかれましたか?

柴田 いえ、まったくして行きませんでした。

―  英語がお得意なのですか?

柴田 得意というほどではありませんが、まったく分からないということもありません。
 

学校のロビー:優秀者演奏会が終わった
学校のロビー:優秀者演奏会が終わった

―  先生と言葉が噛み合わなくて不便に感じるところはありませんでしたか?

柴田 やはり伝わりにくいことはありました。これはたまたまなのですが、オーケストラのヴィオラ奏者に日本の方がいらっしゃったんですよ。それで、分かりにくい時はその方が間に入ってくれました。

―  レッスンは何時くらいから始まりましたか?

柴田 だいたい朝の10時くらいから、休憩が途中1時間半から2時間くらいあって、5時くらいまで毎日やっていましたね。

―  レッスンはどういう形ですか?

柴田 受講生は僕を含めて全部で6人でした。最初の1日はピアニストが2人入って先生とレッスンを行いました。2日目からは、オーケストラが3,40名くらい入って、あとは先生と受講生という感じでレッスンが行われました。

―  その中で指導してもらう受講生が入れ替わるのですか?

柴田 人によって時間は多かったり、少なかったりしたのですが、僕はかなり多かったですね。午前と午後30分ずつくらいは振らせてもらいました。

―  それは期待されていた、ということでしょうか?

柴田 どうでしょう(笑)。まぁ、何かあったかもしれないですけれど。課題曲にストラヴィンスキーの「ダンバートン・オクス」があって、僕はよく振らせてもらいましたが、受講生のなかにはまったく指揮をさせてもらえない人もいました。曲によって受講生を振り分けていたみたいです。簡単な曲しか、させてもらえない人もいました。

―  生徒さんのレベルによって曲を分けていたということでしょうか。

柴田 かもしれないですね。
 

レッスン風景:イタリア人のレッスン風景(モーツァルトのピアノ協奏曲)受講生は、自分のビデオを持参して、自分の指揮を確認しています。
レッスン風景:イタリア人のレッスン風景(モーツァルトのピアノ協奏曲)受講生は、自分のビデオを持参して、自分の指揮を確認しています。

―  受講生の中に日本人はいましたか?

柴田 いませんでした。僕の他は全部西洋人で、イタリアから2人と、オランダ、オーストリア、南アフリカから一人ずつ来ていました。

―  通訳はつけましたか?

柴田 手続きの時は通訳がいましたが、レッスンには入ってもらっていません。

―  手続きの時の通訳はいかがでしたか?

柴田 とてもよくしてもらいました。

―  練習はどのくらいできましたか?

柴田 指揮は練習というのがほとんどできないですから、宿泊先に帰って楽譜をずっと見ているような状況ですね。結構毎日のチェックが大変でした。復習ですね。次の日、今日教えてもらったことを踏まえてオーケストラを目の前にして振らないといけないので、勉強はかなりしました。

―  それでは、レッスン以外の時間はほとんどを勉強に費やしていたのですか?

柴田 レッスンが終わったあとはオーケストラのメンバーや、ほかの受講者と食事に行ったりしましたので、勉強は朝5時に起きてやっていました。

―  交流を深められたのですね。

柴田 そうですね、他のコースと比べても交流はあったほうだと思います。
 

祝祭劇場:ザルツブルク音楽祭の主会場
祝祭劇場:ザルツブルク音楽祭の主会場

―  受講生によるコンサートは出演されましたか?

柴田 僕は一週間しかいなかったので最終日になったのですが、6人全員指揮をしました。ただ、曲の難易度だったり、長さはそれぞれ違っていて、だいたい順当な感じでした。

―  柴田さんは、どんな曲を振ったのですか?

柴田 僕はストラヴィンスキーをふらせてもらいました。

―  難しいストラヴィンスキーを!

柴田 はい、かなり難しかったのですけれど、頑張ってふりました。

―  コンサートで指揮をされていかがでしたか?

柴田 オーケストラが来ている事もあって、かなりお客さんは来てくれていました。200人くらい入ったと思います。学校関係者もいたのですが、ザルツブルグの地元の人が多い感じでした。

―  地元に開かれたコンサートだったんですね。

柴田 そうですね。受講者コンサートの中でも目玉になっているようでした。プロのオーケストラと若い指揮者という関係で、ポスターにも出ていたくらいでした。

―  宿泊先の学生寮はいかがでしたか?

柴田 まぁまぁ、思ったよりは良かったです(笑)。1Kくらいで、バスタブはありませんでしたけど、シャワーが付いていました。新しくはありませんでしたが、普通に清潔でした。

―  建物は、オーストリアの伝統的な感じですか?

柴田 いえ、全然。四角い感じでした(笑)。
 

モーツァルテウム音大側から対岸の全景を写したもの
モーツァルテウム音大側から対岸の全景を写したもの

―  外食はされましたか?

柴田 はい、オーケストラのメンバー達とよく行きました。バーベキューをしてくれたんですよ。そういうのにも行ったりして面白かったですね。

―  外食はおいくらくらいでしたか?

柴田 旧市街の観光地の真ん中だと結構かかりましたね。食べて、ワインでも飲んだら、12,3ユーロくらい(約2,000円)。でも、ザルツブルグでも観光地じゃなく郊外に行けば、8,9ユーロくらい(約1,400円)ですみました。

―  近くにスーパーとかはありましたか?

柴田 モーツァルテウムは川を渡ったところにスーパーがありましたし、学生寮の近くにもかなり大きなスーパーがありました。ただ、平日の昼間しか開いてないので、僕はほとんど活用できませんでした。ほとんど外食でした。だから(渡航費用を)ぎりぎりで行ったら大変だと思います。

―  外食に結構かかりましたか?

柴田 そうですね、かかった方だと思います。

―  講習会と宿泊先はどういう風に行き来されましたか?

柴田 だいたいバスですね。

―  どのくらいかかりましたか?

柴田 20分くらいだったと思います。

―  バスが遅れたりとかはありましたか?

柴田 ほとんど定時だったと思います。

―  スリなどの被害にあわれることはなかったですか?

柴田 何もありませんでした。ウィーンでも、ザルツブルグでも。
 

ザルツブルグのメイン通り
ザルツブルグのメイン通り

―  不審な人は見ましたか?

柴田 見る限りはなかったですね。

―  海外の人々とうまく付き合うコツは何かありますか?

柴田 自分の意見をはっきり言うことですね。色々と、「どう思う?」と聞かれることが多いんです。最初はちょっと少し下に見ているみたい
な感じがありましたね。でもそれが、僕が指揮をふって、音楽的な何かが伝わった時、なくなったように感じました。そういう意味では音楽で通じるというのは結構あるので、認め合うのが一番かな、と思いますね。

―  認め合えるものを持っていらっしゃるんですね(笑)。

柴田 それは分からないですけど(笑)。でも表現は結構できたかなというのはあります。音楽で何もなかったら、それからは相手にしない、という手もあると思います。

―  認め合うところは認め合うという方々がたくさんいらっしゃるんですね。

柴田 そうですね、やっぱり音楽で繋がっているなと思いますね。

―  今回講習会に参加して良かったと思われますか?

柴田 いやもう、かなり良かったですね。海外の方々とばかり話をして、日本語を話す機会がほとんどないくらいだったので、それぞれの国民性がよく分かりました。音楽をやる姿勢は一緒だな、自分がやっていることは間違っていないという再確認になりました。一週間はちょっと短いかな、とは思いました。しかし、仕事をしている関係で長期留学をするのは難しいため、休みを見つけてこうやって短期で講習会に行くしかないので、その分集中してできました。体力的にはきつかったですけれど、帰りは涙が止まりませんでしたね。参加できたことが嬉しくて。最後の日、受講者コンサートのあとに、70人、80人くらい集まった大宴会があったんですよ。とても楽しかったです。学校の先生とか、ミューレンバッハも来ました。オケのメンバーやヨーロッパの方々ともメールアドレス交換したりしました。人間的な付き合いが繋がって、本当に良かったですね。

―  講習会で自分が変わったとか、人間的に成長したな、と思うことはありますか?

柴田 音楽に対する自分の気持ち、取り組み方をまだ完璧に掴んだわけじゃなく、漠然とした感じではありますけれども、確立できたところはありますね。自分がやっていることが、本当に西洋でも同じようにやっているのか、日本でだけこうじゃないのか、と思っていたんです。指揮だったら、斉藤指揮法というのが日本ではあるんですが、それだけじゃ駄目だという事も分かりました。ひとつの僕の音楽性の指針にはなりました。

―  留学前にしっかりやっておけば良かった、ということはありますか?

柴田 曲ですね。もっとしっかりやっておけば良かったと思いました。留学する前は転勤前でばたばたしていて、なかなか楽譜を見る時間がなかったので。

―  日本とオーストリアで大きく違う点はありますか?

柴田 オーストリアはかなりルーズですね。サービスやテンポが。でも自分がそのテンポに入れば何のことはなかった。逆に気持ちにゆとりが出たりしました。
 

尊敬するベートーベンの墓(ウィーンにて)
尊敬するベートーベンの墓(ウィーンにて)

―  今後留学する人に何かアドバイスがありましたらお願いします。

柴田 悩んでいる人がいたら、無理してでも行った方がいいと思います。資金的にも無理してでも行った方が何かに繋がると思います。絶対に。二の足を踏んでいるとしたら、行った方がいい。でも、漠然とただ海外に行けば何かある、という人は行っても仕方がないと思います。ある程度、自分が悩んでいることや目標や目的がある人でないと参加する意味がないと思います。でも、きちんと目標がある人が行ったら、必ず何かがあると思います。

―  今後の活動の予定はいかがですか?

柴田 自衛隊での活動が基本にあります。吹奏楽の中でやることになるのですが、それはオーケストラから派生したものでもありますから、指揮というものは共通です。今回勉強したことを十分活かして、自衛隊の演奏を充実させていこうと思っています。自分のためだけではなく、自衛隊や地域のためにも、もっと人を感動させられるような音楽を作っていければと思います。

―  長い間ありがとうございました。
 

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