小出拓人さん/映画作曲/バークリー音楽大学/アメリカ・ボストン

小出拓人さん/映画作曲/バークリー音楽大学/アメリカ・ボストン小出拓人さん プロフィール幼少よりピアノに親しむ。一般大学在学中にジャズピアノの魅力に惹かれ、音楽の道を志す。資金調達もかね、一度は社会に出て就労。
晴れて、Berkleeに進学。映画音楽作曲家コース在学中
-よろしくお願いします。久しぶりの日本はどうですか?
小出 暑いです(笑)。
-全然違いますか?
小出 違いますね。湿度とか。温度も全然違います。たぶん今むこうは半袖一枚だと寒いので。
-今は学校はどのコースなのですか?
小出 フィルムスコアリングメジャーというものです。
-何年生ですか?
小出 バークリーの場合何年生という数え方じゃないので、セメスターという数え方をすると次が9セメスター目で、次の秋セメスターが最後です。
-メジャーが変わったのですよね?
小出 受験の時はピアノだったのですが、メジャーと自分のプリンシパルという楽器は何もリンクしていなくて、入る時にプリンシパルは決めるので、そこでピアノで受験したんですね。ただどのメジャーに入るかは、入ってしばらく経ってから決めるということだったので、入学当時は決まっていない状態です。
-フィルムメジャーにはいつ変わったのですか?
小出 入って1年くらいですね。3セメスター目くらいです。今は4年目でちょうど丸3年経った所です。
-小出さんの略歴を教えてください。
小出 よくある、両親が子どもに無理矢理ピアノを教えている家庭だったんですね。最初はピアノは女の子がやるものというイメージがありました。音楽自体は好きで、弾くのも好きだったと思うのですが。定期的に習い事に行くのも、自分がやりたくてやったわけではありませんでした。なぜ親に怒られて泣きながら、やりたくもないことをやらなきゃいけないのかと、いやいや続けていて殆ど練習しませんでした。たまに人前で弾くと拍手をもらえたりしたのは嬉しかったので、楽しんでもらえたらいいかなという程度でしかありませんでした。
その後、日本の大学でジャズ系のサークルに入りました。今まではクラシックだけだったのですが、そこでジャズの世界を知って、コードを読んだりアドリブなどに触れた時に、一気に世界が広がったというか、マインドオープニングのような体験があったんです。そこでガラッと変わって。まずジャズが楽しい、そこから延長して音楽が楽しいとなりました。もっともっと音楽そのものを勉強していきたいという風になって。
ただ大学は音楽とは全く関係なかったので、それは一度普通に卒業しました。卒業する時に、一番迷いがあって、留学したいというのもあったのですが、もう一方で日本の4年制の大学に行っただけというのは、言ってみれば何も知らない状況なのかなという思いもありました。親もその時は援助しれくれないという状況で、色々迷ったあげく、一度社会に出てみるというというキャリアを選びました。大学までの狭い世界ではなく、外の世界を知ることも必要だし、お金も貯めないといけないしということで、普通に就職をしたんですね。
映画館の関連の会社だったのですが、そこで働いたのは約3年半です。3年間ずっと諦めきれないというか、常に音楽をもっとちゃんと勉強したい、現地、外に出て習いたいというのがずっとどこかでひっかかっていました。最大の芯となる理由はコレですが、他にも多少あります。決断した時は27歳ですが、大きく進路を変えるならもう今しかないなという今後の年数の問題が一つ。あと、働いていた3年半というのは全体からみたらまだまだスタートしたばかりですが、どんなに今後自分の裁量が増えてきてエキサイティングな仕事をやらせてもらえるとしても、あくまで会社という枠組みの一員としてお金をもらって働くというのはずっと変わらない。その根本は変わらないなと思って、今言ったような色々なことを天秤にかけた感じです。結果として、リスクを負ってまで外国に行って音楽を学びたいかどうかを考え、やっぱりやりたい、今しかない、できるなら今がラストチャンスだと思って行きました。その過程で、結局ジャズではなく、フィルムスコアリングを学びたいということになったのですが。
-決断して今現在に至って、間違っていなかったと?
小出 一言で言い表すのは難しいですが、結論だけ言えば間違っていなかったです。
-毎日エキサイティングで?
小出 それは本当にそうですね。日本にいた時の自分では全くできない様々なことを経験できているので。
-学校に入って、それからフィルムスコアリングに興味が出たのですか?
小出 
音楽を学びたいというきっかけはジャズでしたし、クラシック畑の人間ではなくどうしてもそちら方面の受験は難しかったんですので、最初色々サポートして頂いている時はニュースクールとマンハッタン音楽院のジャズ系でした。ただ、サークルを卒業してジャズばかりに割いていた時間が空くと、どこか必ず戻ってくるのが、映画とかゲームのサントラでした。昔からよく聞いていて、定期的にそこに戻ってきていた。ちょうど受験のこともあっていろいろ考えた時に、自分が一番ナチュラルに自然と受入れられるものは何かなと考えると、映画やゲームの音楽が自分が育ってきた中で一番に感じられたので、自然とそっちに進路が決まりました。気づいたらこんな身近な音楽があったんだな、という感じです(笑)。
-作曲の経験はそれまでにあったのですか?
小出 作曲と言えるほどのものはないです。ピアノを練習している時に遊びでグチャグチャとやる感じで、作曲と言えるかはわからないですね。
-経験をふまえて、割と大きな進路変換だと思うのですが。
小出 そうですね。でもやってみるとなんとなく、今まで意識すらしていないくらいなんとなくやりたかったことが、やってみるとこれだったかも!と思いました。
-学校の授業は作曲を?
小出 そうです。メインは作曲です。
-演奏はあまりしないのですか?
小出 今はほとんどしていないです。最初の頃は必修として各自のプリンシパルの楽器の必修はあるのですが、それは後半になると必修ではなくなるので。時間がある時にはもちろん練習するのですが、忙しい時には全然弾けていないです。
-学校の授業はいかがですか?
小出 大変ですね。宿題や課題がたくさんあって。今ディグリーなので、リベラルアーツもとっているんです。二つあるとやっぱりきついですね。
-リベラルアーツもとっているのですね。どんな科目が?
小出 数学や科学はトランスファーできたのですが。僕の場合は理系だったので、社会科学的なものがまったくトランスファーできず。ヒストリーとかカルチャーとかをとっています。
-授業は英語で?
小出 英語です。
-ヒストリーというのはアメリカの歴史を?
小出 色々あります。ヨーロッパとかアメリカとか、いくつかある中から選択します。
-日本の大学と同じでこの先生だと単位がとりやすいとかはあるのですか?
小出 ありますね。
-レポートが少ないとか?
小出 はい、楽で有名とか、厳しくて有名とか。
-一日の時間の使い方はどんな感じですか?
小出 やっぱり朝はあまり授業に出たくないので、平均して起きるのは9時くらいです。支度をして授業が10時~11時くらいからあって。週によってバラバラなんですが。一番一般的なのは、10~11時くらいから始まって、4時くらいまでに授業自体が終わるのが多いですね。空いた時間でひたすら宿題や課題をやって、それをずっとやりつつ寝るのが2~3時くらいですね。
-そんな時間まで寝れないくらい課題が?
小出 忙しい時はそうですね。
-どんな課題が出るのですか?
小出 自分の専門だと、来週までに、何分の曲とか、楽器編成はこうとか、スタイルはこういう曲を作ってきなさいというのがメインです。それに関わるものも出たりはするのですが。毎週何かしら必ずあります。今週はまったく曲を書かなくていい、ということはないですね。宿題が出ない授業は珍しくて、大なり小なり何か出ます。逆に出ないと、「今週ないの?!」みたいな。
-このページまで読んできなさいとか?
小出 そういうものもいっぱいありますね。
-四六時中曲を考えている状態ですか。
小出 言われた時にどういうものにしようかなと考えて、あとはご飯を食べたり歩きながらアイデアを考えて、実際机や楽器に向かってから練っていきます。
-今までで一番大変だった課題は?
小出 全部です(笑)。今は慣れたのですが、最初に、指定された日時や楽器で生のレコーディングをしなければならないという課題がありました。今は必ず毎セメスター2回あるのですが。学校に小さいスタジオがあるのですが、自分でミュージシャンを集めて、スタジオに入って指定された時間内で自分が指揮をして録音して。作曲、編曲、スコアを用意する、ミュージシャンを集める、録音する、という一連の流れを最初から最後まで自分でやらなければなりませんでした。自分で集めてというのも緊張もしましたね。
-楽器も指定されていたりするのですか?
小出 パターンがあります。例えば3人以上いれば大丈夫という場合は自分で集める。また別のパターンだと、学校側が用意してくれるので自分で集めなくていいけれど、その場合は楽器を足しても引いてもいけないという。それはそれで練習にはなるのですが。
-ではオーケストラみたいなことも?
小出 小さいですけどね。10人くらいで。
-どれくらいの期間で仕上げるのですか?
小出 授業にもよりますが。最初に「こういうものがある」というのは、1カ月か1カ月半前から言われるので、その時点でなんとなくイメージや準備はできます。で、実際に近づいてくると、最初のスケッチという、オーケストラで言えばフルオーケストラでなくその前のメロディーとコードくらいをまず提出をしなさいと。そこに先生がアドバイスなどをくれて色々直して、オーケストラに編成を変えるという流れがあるので、全体を通して1カ月か1カ月半くらいですね。
-頭を使いますね(笑)。
小出 はい、作曲系のメジャーは頭を使いますね。
-先生とのレッスンで、先生が何を言っているかがわかる程度の語学力も必要ですものね。
小出 はい。音楽の方の授業はわかります。でもリベラルアーツはきついですね。分かりやすい先生はまだいいのですが、話すのが早い先生とか、言葉選びが一般的ではない先生とか。先生ってジェネラルな言葉選びをするじゃないですか。そうじゃない人も時々いて、そういう人は「今なんて言ってたの?」となることもあります。
-語学に関しては日々勉強ですね。
小出 勉強というものかはわからないですが(笑)。
-小出さんの場合、行かれた時から英語はおできになる感じでしたよね?
小出 いやいや。高校を出てすぐ来たような日本人と比べてはっきり差が出たのが、書きとか読みとかリベラルアーツの、いわゆる“お勉強”のような英語は他の日本人に比べて得意だなと。「俺は一夜漬けでいけるな」と言っている所を「全然無理です」と言っている人もいて。日本の受験勉強をくぐりぬけるとその辺のコツというか、英語の“お勉強”はできるようになるのですが、逆に対面で言葉だけでコミュニケーションというのが難しくて。むこうに行って感じたのが、文化の差によるコミュニケーションや性格の差です。僕はすごく日本人ぽくて、なかなかすぐ打ち解けるというのが難しかったんですね。もちろん言葉の壁もありますし。なので英語での会話に関しては不得意な方だし、年も年なのでそんなにすぐインプルーブしていかないんです。逆に若い人は全然正しい英語じゃないけれど、勢いでその辺の店員とも仲良くなれる人もいて、すごく分かれるなと思いました。
-世代によっても苦労する点が違ってくると。
小出 微妙に違いますね。
-留学生は多いですか?
小出 多いですね。正式には3~4割なんですが。留学生が行きたがるメジャーが偏っていて、それがジャズとかジャズコンポジション、フィルムスコアリングなんですね。自分がよくみるようなクラスは留学生が多いです。
-半分以上とか?
小出 そうですね。
-8~9割までいきますか?
小出 そこまではいかないですが、だいたいどのクラスも半分ちょっとは留学生ですね。特に僕の上下の代はアジア人が多いです。
-代によっても違いますか?
小出 そうですね。微妙に差は出ます。
-バークリーで実際に勉強してみて、いい所悪い所はどんな所がありますか?
小出 僕の性格上、悪いところの方が目につくので(笑)それを先に言うと、自分のことは棚に上げさせてもらいますが生徒の質の差が激しすぎますね。もともと誰にでも音楽を学べる環境をという素晴らしいコンセプトで始まった学校らしいので、今も試験はやっているのですが、他の音大のようなレベルは必要なく、譜面が読めなくても楽器がそこそこ弾ければ入れちゃいます。
当たり前ではありますけど宣伝でいいところばかり出すので、その文句に釣られてよくも悪くも軽い気持ちで来れてしまうので、適当な生徒も多く、学校側もそういうスタンスなので許してしまうメジャーもあります。
-不真面目な生徒が多いと?
小出 多いです。
授業でも、自分がよくわからないつまらないというものに対して、あからさまに不満な態度をとる生徒がアメリカ人には多いんですよね。
-それで単位をドロップしちゃうとか?
小出 ドロップしちゃう人もいますし、最後まで残っている人もいるのですが、Dとか、あまりいい成績はとれていないと思います。何かを学ぼうという志が全体として低いですね。留学生は真面目な人が多いので、話していても仲良くなったりお互い切磋琢磨しあえる所はありますが。
-アメリカ人には敷居が低くて、留学生は大変ということですか?
小出 いえ、レベルとしては同じです。ただ、留学生で来る人は、それなりの意識をもって来る人が多いので、割合としては真面目な人が多くなりますね。
結果的にセメスターが進むと残るのは真面目な人なので、アメリカ人でも仲良くなる人はいますが。
-もちろん高いレベルの人がいると?
小出 そうですね。そういう人たちはバークリーを代表するような人たちで、スカラシップフルスカラシップと言って全部もらっているような人たちです。そういう人のレベルは本当に高いですし尊敬します。
いい所は、幅の広さです。バークリーはカバーしている分野が広いんです。クラシックばかりやるコンポジション科は他の音大にも多いですが、他にエンジニアのメジャーやミュージックビジネス、エデュケーション、セラピー、もちろんフィルムスコアリング、ジャズコンポジションなどと色々あって、一つのメジャーにいながら他のメジャーの授業もいっぱいとれるんですね。最初に決めなくてもいいし。いろんなものに触れる環境が多いので、自由に自分の学びたいスタイルを選べるという点では、他にこんなに揃っている学校はないと思いますね。
-他のメジャーの授業もとれるんですね。
小出 はい。僕も時々とっています。
-カリキュラムをみる限りでは、きちっと決まっているのかなと思ったのですが。
小出 基本的には卒業するためにとらなければいけないものはガッチリ決まっています。メジャーがあがらないととれない授業もあるのですが、他のメジャーで誰でもオープンにとれるというものもあって。僕はフィルムスコアリングの中でもクラシック寄りのスタイルなので、コンポジションメジャーのクラシックの授業をとったりしていますね。
-それは具体的にどんな授業なのですか?
小出 例えばロシアンアートオブモジュレーションというものです。ロシアの変調のスタイルを教えるロシア人の先生で素晴らしい方がいらっしゃいます。
他にはラベル、ストラヴィンスキーなどの人生や曲を教えるというのもあります。自分はフィルムスコアリングにいながら、コンポジションのそういう専門授業もとれるんです。
あとはコンテンポラリーライティングアンドプロダクション(CWP)という、ポップス、コンテンポラリー、ジャズ、オーケストラといった幅広いジャンルを平均的に学ぶメジャーがあります。その中でオーケストレーションをコンピューターでやる時によく聞こえるようにするという授業もあったりして、それもとったり。本当に幅広いです。
-1セメスターでとれる単位の数は決まっているのですか?
小出 それは決まっています。ディグリーだと16単位というのが決まっていて、それ以上超えると1単位いくらで払わなければなりません。
-色々勉強できるのですね。逆に自分でこうしたいと選択する意志がないと難しいと。
小出 いえ、浮気をせずに自分がやりたいものだけやるというのもできます。
-途中で学校をやめてしまう人もいますか?
小出 いますね。そういう人のことは日本人くらいしか情報を聞かないのですが、多いのはお金がないから帰らざるを得ないという人がほとんどですね。
-小出さんは資金面はどうしているのですか?
小出 自分が働いている時に稼いだものを使ってはいましたが、それではもう全然足らないので、両親から貸してもらっています。
-スカラシップを使ったりはしないのですか?
小出 最初の入試の段階で、ただの合格やスカラシップがいくら出るかというう、いくつかの段階があります。僕はスカラシップなしの普通の合格でした。なので入ってからアピールするしかなかったのですが、提出物や実力の証明などが僕には難しく、結局もらえていないです。
-手順が大変と?
小出 そうなんです。その割に入学の時に入った人はずっともらえるんです。更新のための面倒なアピールなどもなくて。
-ずっともらえるのですか?
小出 根本的にはもらえます。何かしちゃいけない、というのがあったと思いますが、普通に通っている限りはもらえます。
-卒業されてからはどのように?
小出 そこが問題なんです。OPTはとりたいですね。卒業してからはさすがに親の援助はないので、理想だけで言えばロスにいってフィルム音楽のアシスタントでもなんでもいいので、その業界に入ってリアルなビジネスの場に身を置きたいです。
-OPTの就職先などは、学校は何もしてくれないのですか?
小出 斡旋というわけではないのですが、情報は持ってます。ロスにもオフィスがあって紹介程度にはしてくれています。
-そのままボストンにいるという選択肢はないのですか?
小出 どうしても残りたいとか強い思いはありません。もちろん基本のスタンスとして、仕事をくれるならどこでも行きますよ、という感じなんです。アメリカ日本以外でも。でも黙っていて仕事をもらえるようなことはないので、何もない状態で自分でどこに行きたいかとなったらロスに行きたい。もちろんレベルの高い人はどこでも仕事を見つけられると思うし、実際ロス出身のフィルムスコアリングのある友達は、ボストンの方がネットワークがあるということで残ってます。ただ、僕の場合は限られた1年というOPTの期間の使い方として、やはり中心地であるロスでやりたいです。
-お友達がボストンにネットワークがあるというのは、学校の先生経由ですか?
小出 いえ、先生経由ではなくて、ミュージシャンがボストンの方が見つけやすいんです。周りに卒業した人も残っていたりするので。彼は学校がらみではなく、何で見つけたのかはわからないのですが、インディペンデントなゲームの音楽をやっていると言っていました。
-在学中に会社とかに作品を送ってアピールすることもあるのですか?
小出拓人さん/映画作曲/バークリー音楽大学/アメリカ・ボストン小出 会社にはしていないです。あ、最近ちょっと応募したりしました。まだ結果はわからないですが。
あとは学校に日本人でゲームの音楽等を作曲している作曲者が来て仕事の内容を紹介したりしたときに、その方もバークリー出身ということで、CDを渡して聞いてくださいと伝えたり。あと、以前習っていたけど、今は教えに来ていない先生にも聞いてもらったりして。それくらいですね。いきなり送りつけてというのはまだやっていないですが、これからどんどんやっていかなければなりません。
-アシスタントはどんなことをするのですか?
小出 場合に寄って様々です。スタジオに行ってコンピューターのセッティングをする様な雑用だけとかもあるようです。
-これをオーケストレーションしておきなさい、というのではなくて?
小出 もちろんそのような実際の作曲作業に大きく関わるような場合もあります。それだったら僕も進んでやりたいです(笑)。
-有名な作曲家の人はアシスタントがいるのですね。
小出 はい。でかい所なら作曲以外も含めたら制結構な人数でやっていると思います。
-別の方なんですが、在学中にオーディションを受けにいって、その先の所属も決まったという方がいました。
小出 そうですね。僕の場合はどんどん送って、オフィスにかけあってみるというのを今からしなければなりません。
-学校の授業も受けつつなので大変ですね。
ボストンという街についてですが、住みやすいですか?
小出 何が好きかなんですよね(笑)。一般的に言って住みやすいですが、エキサイティングではないです。よく言えばのどか。郊外は静かでいい所なのですが、街中、バークリーの周りはうるさいです。学生も多いし、遅くまで曲をかけている人もいて。ちょっとはずれれば静かで住みやすいです。でもニューヨークのような、いるだけで刺激になるような街ではないです。
-今はお住まいは?
小出 学校から歩いて5分くらいのアパートをシェアしています。
-最初お部屋で苦労されていましたよね?
小出 最初、2010年7月に行って、12月までそこに住めると思っていたのですが、その時に住んでいた人が他にも募集をかけていて情報の行き違いがあったようで、2カ月しかいられないことになってしまったんです。でも9月だから入れ替わりの時期だし、見つかるだろうと思っていました。
実際9月に一度決まったんです。そうしたら、またそこに住んでいる人がダブルブッキングしていましたと。それが入居1週間前くらいだったんです。納得できないので説明を求めると、一方的に「むこうの方が早かったので諦めてください」と言われたんです。それはちょっとないだろうと、住む所もなくなってしまうし、せめて直接会って原因を聞いて、誠意をみせてほしいと思ったのですが、それすらもなくて。ただメールで「すみません」と。その時が一番焦りましたね。それは日本人の掲示板で探していたので、どうしようもないなと。すぐに見つかるような所でもないので、クレッグスリスト(物を売り買いする巨大掲示板)でルームメイト募集をギリギリで探して即決させました。
-それは部屋を貸しますという人がいて、その方と連絡をとって、自分はこういうものですと?
小出 そうです。たまたま相手もバークリー生だったんです。しかも韓国系アメリカ人で、こちらがアジア人だと知って、「ぜひ一緒に住んでくれ」と、感じのいい人でした。
-引っ越しは何回かしていますか?
小出 結構していますね。9月から住んだ所は相手が12月に卒業で出る予定だったんです。そのアパート自体もそんなに好きじゃなかったので、自分も12月の契約までにしてもらって、12月からは日本人の友達に紹介してもらった所で。建物としてはよかったので、ほぼ2年近く住みました。そこはよかったのですが、会社の方がレンタルじゃなく売り出しますということになって、出ざるを得なくなってしまって、今はまた別の所に住んでいます。
-結構大変なんですね。
小出 はい。これだけ引っ越している人はなかなかいないと思いますが。稀ですね。みんな多くても1~2回だと思います。
-家賃はおいくらくらいですか?
小出 シェアでだいたい下が700、上が900くらいです。
-寝室だけシングルであとはシェアという?
小出 リビングっぽい大きな部屋がない場合で中くらいの部屋がある場合はそれぞれ一部屋で、キッチンバストイレが共同です。リビングがある場合は、そこをカーテンで仕切って一部屋として使うことが多いです。
-何人くらいでシェアするのですか?
小出 2~3人です。リビング+もう1部屋あると4人で住んでいたりとか。
-その中でもめ事があることも?
小出 まあ聞きますね。
-ボストンは生活費は高いですか?
小出 ニューヨークほどではないと思います。家賃に関しては日本より高いですね。シェアで月に400~600ですよ。自分一人でスタジオに住もうと思うと1000ドル前後になってしまうんです。てことは日本だと10万くらいなので、ぼろいくせに日本より高いですよね。食費は日本食を買わなければ安いと思います。
-日本食のお店もあるのですか?
小出 本物じゃないですけど(笑)
-中国系とかですか?
小出 日本人以外がやっている日本食ですね。寿司とか照り焼き系のものとか。
-交通費はどうですか?
小出 僕は基本的に歩いているので使っていませんが、ボストンは安いです。チャーリーカードを持っていると1回1.5~2.00ドルです。すごいのが、一回乗ってしまうとどこまで行ってもその金額なんです。空港までいっても同じ。そういう意味ではすごい安いし、学生は学割があるようなのでいいですよね。ただ、まったく電車の時間はあてになりません。始発と終電が決まっているだけで、間は何分おきに来ますという目安はあるのですが、ぜんぜんあてにならないし、すぐに止まってしまうし。
-生活面では日本と比べると不便ですか?
小出 インフラにおいては、はるかに日本の方が楽です。せいぜいwi-fiがどこでも飛んでいるくらいです。
-それは無料ですか?
小出 だいたい無料です。カフェにいってもパスワードは必要ですが書いてあって。学校も無料ですし。
-バークリーはパソコンを学校で買うのですよね?
小出 そういうテクノロジーは優れています。
-パソコンで提出することも?
小出 僕の場合はそうですね。パソコンを多く使うメジャーなので。そうでない所は紙で提出とかスコアで提出が多いのですが、メインがパソコンを使うメジャーが多いので。
-ロジックもパソコンで?
小出 そうです。そういうものを習う授業も多いので。そういう意味では、全員同じパソコンをもっていて、同じソフトウェアが使えるという前提なので、そのシステムがうまくまわっているのだと思います。
-ノートパソコンが配給されるのですか?
小出 いえ、買うんです。楽器とは別に買わなければいけないんです。
-3100ドルくらいですよね。ソフトもいろいろ入っていて。
小出 はい、自分で一からそろえるよりは得ですよね。さらにメジャーごとにバンドルがあって、そのメジャーで必要なものを入る時に買わなければなりません。でもそれはこれを学ぶなら必要不可欠なものということなので、そういう意味でもテクノロジーの環境はお金はかかるけれども整備されています。
-学校の設備もよいですか?
小出 バンドルなら自分が持っているものと同じものが、学校のラボと呼ばれる(時間があいている時に使える場所)ような設備に揃っていたりするので。
-バークリーは学校がいろんな所に点在していますよね。あれは学科ごとなのですか?
小出 分かれているようで分かれていないんです(笑)。一応オフィスが集まる棟、普通の教室、アンサンブルが集まる棟などがあるのですが、その中でも別の教室があったりオフィスがあったり。普段リベラルアーツをやる校舎は決まっているのですが、全く違う校舎になったりもします。そこはめちゃくちゃですね。
-授業の移動時間も考えないと大変ではないですか?
小出 授業の間に移動できない距離ではないんです。一番遠くてもギリギリ間に合う距離です。
-授業は1コマ何分ですか?
小出 50分です。
-そんなに短いのですね?!
小出 でも実際50分の授業は最初に少しあるくらいで、専門の方になると2コマが1授業なんですね。1時から2時50分とか。50分単位なので、間の10分を休憩にする先生もいれば、そのまま通しでやってしまう先生もいます。
-50分は短いですものね。
小出 50分はイヤートレーニングなどの最初の基礎的なものとか。3コマの授業の場合、2コマと1コマに分かれているので、1コマの方が50分とか、そういう感じです。リベラルアーツはほぼ3コマです。
-ヒストリーを聞きっぱなし?
小出 そうです(笑)
-寝ますねそれは(笑)。
小出 話が面白い先生は大丈夫なんですけどね。
-先生も大変ですよね。
3コマとって1単位なのですか?
小出 その場合は3単位です。必ずしも一致しないのですが、50分が1単位という換算です。
-今後の将来的な夢は?
小出 夢というと大げさですが、ロスにいって、一番の理想は自分が作曲者というクレジットで。自分一人でできるくらいの小さいプロジェクトもやりたいですが、それなりにみる人も多いものがいいですし。作曲者になれたらそれはそれでいいですし、それに関わるならオーケストレーター(編曲家)なども、できたら僕は楽しいので。むこうのテレビでもゲームでもなくフィルムに、作曲編曲で携わりたいですね。
-フィルムにこだわる理由は?
小出 テテレビ・フィルム・ゲームという分け方をしたとして、そのなかで最も普段自分の生活で関わりがすくないものがテレビで、日本にいる時も殆ど見ていませんでした。もちろん仕事として音楽に関われるのであれば変わりはないのでそこは別ですが。
ゲームの場合は、僕はそのような専門じゃないので詳しくは説明できませんが、映画とは異なる、とてもBGMっぽい音楽が使われる部分が異なるんじゃないでしょうか。
僕の感覚ですとフィルムという媒体がエンターテイメントとして完成されていて、テレビのように何十話もなく約2時間という中で物語があり、それを伝達するツールとして音楽をつけるというのが、最も自分がやりたい媒体です。
-映像音楽に流行りはあるのですか?
小出 ありますね。流行りじゃないものが売れないわけではないのですが、みんなそっちにいきたがる音というものがありますね。
-それは誰かが牽引しているのですか?
小出 そうです。今一番牽引しているのはハンスジマーという作曲家です。ではないでしょうか。
-フィルムに関してはいかがですか?
小出 ただの懐古主義かもしれませんが、昔のほうが個人的には好きな作品が多かったような(笑)。昨日ちょうど帰ってきて「風立ちぬ」を見ましたが、久々に映画のあるべき姿を見たような気がしました。その前にむこうで「マンオブスティール」をみたんです。とても迫力があってエキサイティングで面白い映画ですけど、観終わった後に特に何も残りません…。単純にエンターテイメントとして楽しみたい時にはいいですね。
-でもそれは見に行こうと思ったわけですよね?
小出 友達と行こうという流れになっていて、ハンスジマーが作曲で毎回毎回新しいことをやるので、はやりそこは観てみたいなと。そういう新しいものを作り続ける姿勢は重要だと言われるのですが、僕自身があまりそういうのが得意でないので、そのスタンスは本当にすごいと思います。
-オーソドックスな感じですか?
小出 はい、むこうでいうとスピルバーグとジョンウィリアムスみたいなベタベタなもので育ってきたので、自然とそういったものがやりたくなってしまいます。子どもの頃から体験してきたそういう感動を、今は逆発信して同じような体験をしてもらいたいです。それだけじゃダメだと頭ではわかっているし、先生にも日々進化しているんだからと言われるんですけどね。
-映画をみていても、音の方が気になったりしますか?
小出 かなり考えるようになりました。例えば、習ってきたようなセオリーだと選ばないような曲調だと気になってしまって、理由を想像したりするようになりました。
-今後留学したいと思っている方にアドバイスがあれば。
小出 ある程度意志がある方がご覧になるのを前提として言わせていただくなら、むこうに行って、若い日本人の中には「何しにきたの?」という人がいるので、そういう風にはならないで欲しいです。もちろん殆どの人がとても意識の高い方々ですが、中には学校にただ通うだけで他の生活は日本にいるのと変わらず、何を学んでいるのかよく分からないような人もいます。自分のやりたいことだけはのびているのかもしれませんが、乱暴に言ってしまうとそういうのは見ていると時間とお金の無駄だなと考えてしまいます。
僕の場合は、周りからしたらある程度年がいって、子どもの頃からバリバリやっていた人が多いなか、ほとんど練習しなかったタイプなので、ある意味やるしかない状況と、ちょっとは会社勤めでいろいろみて、少し長く人生を生きていて、会社をやめてまで来たのを考えると、何が得られるかわからないけれど、何でもいいから吸収しないと無駄になるなという危機感からこう思うんです。
なので、留学したいという気持ちは大事にしていただきたいのですが、行くからには自分の何かをかける訳ですから、音楽はもちろん、その他全てを持って帰るという気持ちでやらないと、お金と時間が無駄になるなと。何をやっても、どんなものをやってもいいけど、その気持ちだけは大事にして日本人としてがんばれたらなと。自分が言うのもおこがましいですが、周りにそういう方が多いと自分への刺激にもなるので、自らへの戒めも込めて。
-周りがだらけていると、、、
小出 イヤですね。流されかねないので。流されてしまう人もいますし。
-どん欲さにかけるんですかね。
小出 そうかもしれないです。僕よりうまい人がそういうことをしていると、本当にもったいないなと思いますね。
-モチベーションを持ち続けることですね。
小出 はい。それは難しいですけどね。自分も。やらされていることにいっぱいいっぱいで、それ以上のアクティブなモチベーションが難しいですね。
-日々の生活に追われちゃって、みたいな?
小出 そうですね。中にはそういうことをナチュラルにできる日本人もいるので、そういう人は見ていてうらやましいなと思います。ポジティブな考え、アクティブな面がほしいなと。
-それは周りに「私はこれをやるぞ!」と宣言していたりするのですか?
小出 もちろんそういうタイプもいますし、自然とフットワークが軽い人もいます。気負わずにぱぱぱっとできちゃう。
-それは性格の差もありますよね。
小出 そうなんです! 特にむこうに行った時に差が出ますよね。
-それでもこうしたい!というのがあれば動けますよね。
小出 そうですね。こうしたい!というのが比較的なんでも許されるのがむこうの国なんだと思います。こうしたい!と思って、学校がそれに答えてくれないこともありますが、じゃあこの道にいけばいいじゃんみたいなことが当たり前にあるという。お金と時間があればですが。
-アメリカはチャンスが多いですか?
小出 多いですね! その環境づくりがすごいです。
例えば、ボストン美術館は、周辺のいくつかの学生はただなんです。中に入ると美術系の生徒さんが絵を模写してその場で勉強できる環境だし。僕の場合重宝するのが、ボストンシンフォニーというアメリカ5大オーケストラの一つと言われていて、昔から有名なオーケストラです。そのシーズンが半年くらいなのですが、学割のカードが通常5ドルで売っている所、バークリーでは2ドルで売っているんです。それを買うと、年間をとおして席があいていれば入れるんです。通常買ったら50ドル以上100ドル近くするものを、席は端とかですが、実質年間2ドルでいくらで入れるのは、考えられないですね。育てようという環境が違いますね。
-国柄ですかね?
小出 学業がさかんな都市ということもありますよね。でもニューヨークでもマンハッタンがリンカーンジャズセンターのホールで定期的にやっていたりとか。
-学生にやさしい?
小出 チャンスを与えるという傾向は日本より遥かに強いです。
-やはり留学した方がいろんなものに触れられると。
小出 そうですね、、、。日本のいい所もあると思うんです。例えば日本の実力ある音大を出るというのはすごいですし、そのようなレベルやジャンルの人はアメリカよりもヨーロッパとかの方が主流だと思います。どこにせよ、日本じゃなくて外国にやりたい大学とかがあるなら、そのほうが環境ははるかにいいのではないでしょうか。
-小出さんは日本に帰ってこず、できればずっとあちらでやっていきたいと?
小出 理想としてはそうですね。確定できないことですが。OPTが切れた後にビザがとれるかわからないので。
-ありがとうございました。参考になりました。
働いていて留学を迷われている方も増えているので。
小出 同じような経歴の方、会社をやめてきた人とかは、むこうでも仲良くなりますね。
-結構いらっしゃいますか?
小出拓人さん/映画作曲/バークリー音楽大学/アメリカ・ボストン小出 多くはないですが。
-年齢的に、いかがですか?40代とか。
小出 ちょっといますね。この前卒業した方がそうでした。すでに音楽家として活動されていて、キャリアの一環としての目的なので特例かもしれませんが。あと僕の上で日本人だと、30半ばくらいの人ですかね。その友達は会社員ではないけど日本で働いてこちらに来ていましただいたい30半ばくらいが、一般的な上の方で、一番多いのが高校を卒業して1~2年ですぐに来たとか、4年制の大学を卒業してすぐに来た人たちですね。
-年下に囲まれているわけですね。
小出 ほとんど年下ですね(笑)
-話があわないとかは?
小出 あわない人とは仲良くならないです。合う人とは年下でも仲良くなりますし。
-映画をみていて小出さんの名前が出てきたら素敵ですね。
今日はありがとうございました。

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