村田理夏子さん/ピアノ/ベルリン芸術大学講師/ドイツ・ベルリン
村田理夏子さん プロフィール
「音楽家に聴く」というコーナーは、普段舞台の上で音楽を奏でているプロの皆さんに舞台を下りて言葉で語ってもらうコーナーです。今回はドイツ・ベルリンでベルリン芸術大学講師として、そしてピアニストとしてご活躍中の村田理夏子(ムラタリカコ)さんをゲストにインタビューさせていただきます。「ベルリン芸大や音楽留学」をテーマにお話しを伺ってみたいと思います。
(インタビュー:2007年3月)
ー村田理夏子さんプロフィールー
村田理夏子さん
東京藝術大学卒業。ドイツ政府給費留学生(DAAD)としてベルリン芸術大学に留学し、パスカル・ドゥヴァイヨンに師事。マリアカナルス国際コンクール入賞、ポルトー国際ピアノコンクール3位など多数受賞。ベルリン交響楽団に毎年ソリストとして招待され、ピアノ協奏曲の公演は15回以上。ベルリン芸術大学では、DAADのほか、Nafög奨学金、ロームミュージックファンデーション、ヒンデミット財団各奨学生として研鑽を積み、2000年には最高点、首席にて卒業し、”国家演奏家コース”へ進学。現在国家演奏家試験を準備する傍ら、ベルリン芸術大学講師として後進の指導にあたる。クールシュベール夏期国際音楽アカデミーなどにも講師として招待される。近年は、パスカル・ドゥヴァイヨンとピアノデュオ活動を本格化。2008年11月にはメシアン生誕100年を記念した2台ピアノCDリリースにあわせ日本全国で演奏ツアーを開催予定。これまで、矢部民,高良芳枝、ハリーナ・チェルニー=ステファンスカ、浜口奈々、パスカル・ドゥヴァイヨンの各氏に師事。
― 音楽に興味を持ったきっかけはどんな事ですか?
村田 兄が当時エレクトーンを習っていて、私は兄の真似をしたくて仕方がありませんでした。ヤマハの音楽教室だったと思いますが、通っている兄を母と迎えに行く度に、音楽を習っているのがうらやましくてうらやましくて(笑)。勝手に飛び込んで自分で鈴を振ったりしていました。今から思えば、それがきっかけだと思いますね。
― クラシックはどのように始められたのですか?
村田 クラシック自体は最初からだったと思います。クラシックの曲を弾いていた兄を真似て演奏していた頃からですね。
― 親御さんが子供を音楽家にしようと思っていたわけではないですよね?
村田 それは無かったと思います。ただ母が小さい頃に自分でピアノをやりたかったようです。でも自分がピアノを持つことが出来なかったので子供にはぜひピアノを習わせたいとは思っていた様です。
― ご自分の家にピアノはありましたか?
村田 その辺の記憶が定かではないのですが、私が音楽教室に通い始めた頃、兄のためにエレクトーンを買ったのが最初だと思います。幼児科コースが始まって一年くらいしてからでしょうか。小学校低学年の頃にアップライトピアノを買ってもらった記憶があります。
― その後、東京芸大を卒業してベルリン芸大へ留学をするわけですが、留学をしようと思ったきっかけは何かありますか?
村田 当時、海外の先生が日本にいらっしゃる機会があればレッスンを受けていました。でも、それは留学先の先生を探してというわけではありませんでした。そんな中、大学のころにパスカル・ドゥヴァイヨンのレッスンを受ける機会がありました。非常に高度な要求をするレッスンでしたが、当時学んでいた日本の先生と方向性が大変似ていたこともあり、この先生に是非付きたいと強く感じました。ただ、留学は日本の大学を卒業してから、という思いがなんとなくあり、大学卒業前に留学するという考えは、当時はありませんでした。
パスカル・ドゥヴァイヨンと
― ドゥヴァイヨン先生は、その当時からベルリン芸大にいらしたのですか?
村田 私が大学三年生の頃はフランスのコンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽院)で教鞭をとっていました。先生にパリ国立高等音楽院に行きたいという意向をお話ししたら、パリ国立高等音楽院入学の年齢制限が二十二歳未満なので日本の大学を卒業すると間に合わないと言われました。その為、当時はドゥヴァイヨン先生に付く事は諦めていました。でも留学したいとは思っていて「どこか他を探さなきゃ」と、いろいろな先生の候補を頭に入れていました。ところが四年生の終わり頃、ドゥヴァイヨン先生がベルリン芸大に移られるらしいという噂が流れてきました。ドゥヴァイヨン先生にすぐ確認したところまだ迷っているけど恐らくそうなると思う、という話で、すぐにドイツ語の勉強を始めました。
― ドイツに行きたかったわけではなく、先生がたまたまドイツに来たからドイツに行こうとなったんですね?
村田 そうですね。私が日本でお世話になった先生方がみなさんフランスで勉強をされていましたので、最初は私もフランスかなと思っていたのですが、年齢制限で行けなくなってしまったので、さてどうしようかなと思っていたところです。ですので先生が、ベルリンに丁度来られるというのは本当に良いタイミングでした。
― もしかしたら留学をしないという選択肢もありましたか?
村田 先輩などが留学されているのをみて、留学したいと思ってはいましたが、タイミングがずれていたら行かなかったかもしれないですね。前もって必ず留学するとは決めていなかったので、大学4年の終わりにもう一度ドゥヴァイヨン先生のレッスンを受け、ベルリン芸大を受験してよいかどうか伺い、受験が決まったときには、周りにいろいろ調整をしてもらいました。受験は年齢が若い方が良いといわれ、その当時二十三才になる直前でしたので、両親にはその日に突然、ベルリン芸大を受けるからと伝え(笑)あわただしく留学が決まりました。
ベルリン芸術大学へ向かう道
― ベルリン芸大は、ドイツ語の試験も厳しいですよね?
村田 その当時はドイツ語の試験がありませんでした。何か語学力を証明するものを送るようにとは書いてあったと思うのですが「学校に入学したら自分で頑張ってドイツ語を勉強します」という文書を添えて入学試験を受けました(笑)。今(2007年3月時点)は学校要綱に入学時点でドイツ語中級修了書を取得する必要があると記載されています。ただこの件に関しては状況によりますので、中級終了をお持ちでない方でも、ベルリン芸大の受験を希望される方は、学校の“ピアノ科”に直接お問い合わせいただければと思います。
― ベルリン芸大の外国人比率はどの程度ですか?
村田 ドイツ人を探すほうが難しいですね(笑)。ピアノ科にはあまりドイツ人はいないと思います。アジア人、特に中国人や韓国人などが多いです。受験割合は、完全に韓国人が多いのですが日本人もそれなりにいます。私のクラスにも全部で二十名程度いますが、ヨーロッパ人は少しだけでアジア人がほとんどです。もちろんクラスにもよりますが、ドイツ人がいっぱいいてアジア人が少し、という状態ではなく、アジア人がたくさんいて、ドイツ人が少しという状況ですね。
― ドイツ語で皆さん話されているのですか?
村田 そうです。
― ドイツ語を話すけど、見た目がアジア人という(笑)。
村田 よく笑われるんですよ(笑)。中国人、韓国人、日本人などアジア人同士が話す時にドイツ語になるのですが、それを見るとヨーロッパの人達はおかしいみたいですね。
― 現在、ベルリン芸大は何名くらい受験者がいるのですか?
村田 年によってばらつきがあるのですが、受験をされる方は、少ない時で60人ぐらい、多い時だと100人ぐらいです。申し込み自体は、本当にものすごく多いです。昔のベルリン芸大は一次試験のみで合否が出たのですが、今は世界中からの受験が増えたこともあり、二次審査まであります。
― 合格者は何名くらいですか?
村田 毎年何人と決まっているわけではないので、その年のレベルによるのですが、少ない時で4名、多い時で14人位です。
― 先生の空き状況は関係ないのですか?
村田 合格不合格に関しては関係ありません。最初に、まず合否が出ます。その後、合格者に先生の希望がある場合には、その先生にご連絡して了解を得られれば受け入れてもらえます。特に希望がない場合には、学校側で担当の先生を提案します。
― 例えば、合格する方が10人いて、先生の空きが5人しかなくて、5人余ってしまうという場合はあるのですか?
村田 全体としては、絶対にどこかの先生のクラスに入れます。ただ希望の先生のクラスには入れない事がありますね。場合によっては、半年待てば卒業生が出て席に空きが出るので入学を半年遅らせる方もいます。
― そんな事も可能なんですね。
村田 合格していれば大丈夫です。
― 皆さん、どうやって学校に入れるか(という)噂ばかりなので正確な情報は助かります。
村田 本当に噂ばかりですね(笑)。先生とコンタクトを取っていれば入れるとか(笑)。学校によってはあるかもしれないのですが、ベルリン芸大に関してはそれはありません。いくら先生と連絡を取っても入試に合格しないと入学できません。
― 皆さん、自分に都合の良いように解釈されて「こんな事をどこかで聞いたのだけど本当ですか?」と全く知らないお話しをよくお聞きします(笑)。基本は、入試を受けて合格するということですね?
村田 そうですね。先生方は、どの学生がどの先生を希望しているのか事前に分かっていますので、合格者リストから先生が学生を選んでいきます。先生は二十人以上学生をとってはいけないなどという決まりがあるわけではないので、先生の時間が許す限り学生をとることができます。
ベルリンフィルハーモニーホールで
― 村田さんは、すでに10年ほどドイツで生活していますが、ドイツで音楽を勉強したり活動することで良い点、悪い点はありますか?
村田 私が知っているのはドイツでもベルリンだけになるのですが、良い点というのは日本人だからあるいはアジア人だからという偏見が感じられないことです。音楽に関しては扉が大きく開かれていると思います。そこがベルリンに来てからびっくりしたところであり嬉しいところですね。
― 具体的にはどういう意味で扉が開かれているのですか?
村田 例えば学校のクラスで公の発表会というものを行っているのですが、一般のおじいさんおばあさんなどがその発表会にいらっしゃいます。音楽の好きな方がベルリンの町に溢れている様で、学校のクラス発表会がいつ予定されているかという事を特別に宣伝しなくてもお客様がご自分で探して見にいらっしゃいます。アジア人が弾こうが、ヨーロッパ人が弾こうが学校の発表会でもたくさんいらっしゃいます。そういう所が、よく言われることですが、音楽の伝統や文化がベルリンの街に染み込んでいるのでしょうね。また、教会、病院、学校、施設などでも演奏する機会は探そうと思えばたくさんあります。日本の大学にいた時は、試験の時くらいしか人前で弾く機会はありませんでした。でも、演奏家は、演奏する機会を一番求めていると思います。演奏することで学ぶことも多いと思います。そういう機会をベルリンではたくさん提供していると思います。
― 日本の場合、努力しないとコンサートや演奏機会を得るというのはなかなか難しいですよね。
村田 弾かせて頂く、みたいになってしまいますしね。
― 学校の発表会でもたくさん入るのですか?
村田 はい、本当にたくさんの方が来られます 。「今回は、誰が弾くのですか?」とお客様が聞かれます。ベルリンでは、発表会を楽しみにしていらっしゃる方がとても多いですね。
― 一般のお客さんがたくさん入るというのは、素晴らしいですね。そういう事が日本でも根付くといいのですね。逆に悪い点は、ありますか?
村田 悪い点は、受身でいたらおいていかれる、というところでしょうか。ある程度自分を主張しないと“存在”できません。黙っていても相手が分かってくれるだろうということは全く通用しませんね。
トリオの仲間と共に
― ドイツに留学するために重要なことは何かありますか?
村田 一番大事なのは語学です。「音楽を勉強する」ということだけであれば、一番大切な事は「良い先生に出会う」ことだと思いますので、日本でも勉強できると思うんです。「留学する意味」というのは、その土地や文化、伝統をそこに住む事で感じる事ですよね。音楽は、人間性そのものの集大成だと思いますから、人間自体の深みを増すことが一番の目的であって欲しいと思います。外国に来て初めて思ったのですが、良い悪いは別にして日本はやっぱり島国だと思いました。ほかの国と地理上接していないので、他の文化に触れる機会が非常に少なくなります。場所が変われば、文化はもちろん、人や自然、鳥のさえずりなども、同じ物であるはずなのに不思議と違って感じられます。「土地が変わる」事を体験することで、自分の視野が広がり、いろいろな文化の中で生きている人たちを肌で感じ、自分が変わっていきます。感じとるためには生活がすべての基礎になるので、言葉が重要な手段になると思います。言葉が出来るか出来ないかで、相手の心の扉を開く鍵を持っているか持っていないかほどの違いが出ます。語学を事前に勉強していないと、大学に入っても結局しばらくの間、語学学校に通うことになります。そうすると語学留学に来たようなことになるのでもったいないですよね。数年の留学期間しかないのに語学力ゼロで大学に入ると一年ぐらいは留学期間を棒に振ってしまうことも多いと思います。それではもったいないと思うので少しでも前もって語学を勉強してくる事が大事だと思います。
― 音楽をやる方は、語学はやらなくてもいいやという方が多いですよね。
村田 そうなんです。ジェスチャーで分かるんじゃないかと思われるようですが、やっぱり言葉で深いことを伝えることが多いと思います。ジェスチャーで伝わる部分ももちろんありますが、語学が分かったら、本当は先生はこんなことを言っているのになぁ、という残念な事がよくありますよね。
― 本当はもっと深いことを言っているのに、感覚や見た目で真似る事しか伝わらないということですよね。
村田 そうですね。一回のレッスンで本当にたくさんのことを勉強できるので、語学が分からないとそれは本当にもったいないと思います。
パスカル・ドゥヴァイヨンと
― ドイツで仕事をする上で、日本人が不利な点、有利な点はありますか?
村田 先生になる事やオーケストラに入るとなると、ドイツ人に優秀な方がいればそちらの方が有利だということはありますね。ただ、演奏会となると、私が知っている範囲ではアジア人ということで不利な点はないと思います。
― 村田さんにとってクラッシック音楽は何でしょうか?
村田 私が自分らしく、素直になれ、自然でいられる場所ですね。
― 演奏している時が一番ですか?
村田 演奏にしろ、練習にしろ、音楽自体に関わっている時ですね。西洋音楽というものは、私達にとって外国人の音楽ということではなく、やはり同じ“ひとりの人間”が書いたものなので、ある程度人間として共通した何かがあると思います。楽譜から作曲家が残していったメッセージや何を言おうとしているかを読み取り、自分なりの言葉でそれを表現することで、音楽そのものからエネルギーをもらい、五感を蘇らせてもらえるのだと思います。そういう意味で、一番好きな場所ですね。
― 自分の中にエネルギーがみなぎってくるわけですか?
村田 もちろん必ずしも元気のある曲ばかりとは限らないのですが、音楽は人間の根本である五感に触れるものですよね。いろいろな意味の感性が私の中で研ぎ澄まされ、そのことによって音楽からエネルギーをもらうという事でしょうか。音楽には、どういう表情であれ、何らかの形で作曲家の思いがぶつけられていることが多いと思います。そういう意味で、音楽は人間が残した“生きたもの”といえると思います。
― 楽譜を見ていろいろ演奏していくと、作曲家のイメージが出来てきますか?
村田 そうですね。楽譜だけではなくて、その人の生きてきた道や性格など、どういう人だったかが分かってくると面白くなってきます。
クールシュベール夏期国際音楽アカデミー
― 今後の音楽的な夢を聞かせていただいてよろしいですか?
村田 最近は、教えることが楽しくて仕方ありません。ですので私の夢は良い指導者になるということです。演奏することももちろん楽しいので絶対に続けていきたいのですが、演奏家になるか指導者になるかと言われたら、私は指導者になる事を選ぶと思います。
― 指導者としてどのような事が面白いのですか?
村田 わが子を見るような感じで(笑)生徒それぞれの成長を目の当たりにするという点でも面白いとは思っているのですが、なによりも教えることで自分が勉強できることが凄く大きいのです。教える事は、言葉で表現する必要があり、伝える難しさがあるので、自分自身でもいろいろと考え直します。教えることは、自分が勉強させてもらうということですね。
― 自分の勉強になるということですか?
村田 勉強になります。例えば、生徒さんがある質問をしますよね。それで私がそうではなくて、こういうふうに演奏したほうが良いと思う、と言ったとしてもそれは私の感性でしかないですよね。みんな同じように感じるわけではないですから。例えば何でここを少し暗く演奏したいのかという理由がないと相手は理解できないですよね。でも、楽譜をよく見るとそこに理由がちゃんとあるんです。楽譜には作曲家のメッセージの全てがあって、それを読み取り説明できるかどうかという事でしょうか。
― 演奏だけをやっていた時は感性の部分が多かったけれど、教える場合は、音楽を違う場所から眺めるということですか?
村田 音楽に対してより厳密になりますね。感性の部分が先には立つのですが、良い指導者になるには、説明が出来ることだと思います。
― 説明できないと、生徒さんはなぜという疑問が残るわけですね。
村田 そうです。たとえば良くないことを良くないとだけ言うのは簡単ですが、その理由を説明することが大切です。説明した後は、それを生かして生徒自身が自分で判断できるようにならないといけないと思っています。
― 生徒自身が、修正された理由が分かれば、今後その人自身で噛み砕いていけるということですか?
村田 そうですね。「僕は、こう思っている」と生徒の方から話をしてくる場合もあるので、その場合には、そういう考え方もあるのかと思い更にお互いに学ぶということもあります。
― 日本人の生徒さんはいろいろ意見を言ってきますか?
村田 非常に受身ですね。「私の音楽を演奏してもらっているわけじゃないんだから」とよく言うのですが、私が言ったことをそのまま生徒に弾いてもらう場合、それは、私の演奏を私の代わりに生徒に弾いてもらう事になるので生徒にとって意味がありません。よく「何がしたいの?」「何を感じる?」と聞くと答えに困る生徒が多いです。「間違っているかもしれない」と思って、答える事を恐れてしまうんですね。「音楽にはこれという正しいひとつの答えは無いんだよ」と最近言うようにしています。もちろんベートーベンをショパンのように弾いてはいけないなど最低限の約束事はありますが、何よりもまず「どう弾きたいか」ということが、それぞれの生徒の心と頭になければいけないんです。
― 最初は、反応が無かったとしても一年位経てばいろいろ意見が出てくるようになりますか?
村田 なってきますね。私は普段生徒に質問した場合には言葉が返ってくるまで待ちます。そうすることで、考えるということを養ってもらいたいのです。こちらが何か言ってしまうと何も答えてくれなくなります。私自身もドイツに留学して最初のレッスンだったと思うのですが、先生に「もっと自分で考えてきて」と言われた時に、何を考えていけば良いのか分かりませんでした。それまで自分は下書きの絵を持っていき、先生に色をつけてもらうと考えていたんです。でもドゥヴァイヨン先生に、「自分で絵を提示してくれなければ教えられない」と言われ、目が覚めました。
― 日本の教育はどちらかというと受身ですか?
村田 人によって違うとは思いますが、先生に何か言ってもらって直すと思っている人もまだ多いと思います。判断を先生に仰ぐのです。例えばレッスンで、生徒に弾き直してもらうとします。さっき弾いたものと今弾いたものの何が変わっているかを自分で判断できない人が多いですね。弾き直してもらった後に、こちらをぱっと見るんですよ。「こちらに答えはないよ。今のは自分ではどうだったの?」と聞くと、「分からない」といいます。先生が止めれば悪く弾いた事になるし、止めない場合は良かったのかなと思うのでしょうね。それでは将来独り立ちすることができません。
モロッコのフェスティバル
― 夏期講習など短期で行かれる方は、特に今言われたような事が多いのですか?
村田 そうですね。教える側の立場から言うと短期で教えるのは非常に難しいです。その人と二度と会わないかもしれないので、この人の将来に大事だろうなと思われるところをすばやく見つけないといけません。去年の例では、フランスまでわざわざ講習会を受講しに来ているのに、演奏すること自体を恐がってレッスンで思うように演奏できない方もいました。「どんなことでも世の中の百パーセントの人に認めてもらえるということはない。同じ演奏を聴いても、よく言ってくれる人もいれば、けなす人も絶対にいるのだから、どうせならびくびくしないで好きなように弾いたら(笑)?」と言ってほぐしたりすることもありました。そういう生徒さんの場合は、出来るだけ対話をします。話しをするとほぐれてくるのです。音楽は人間性がどうしても演奏に出てしまいます。人間の中身が変わってくると演奏も変わってきますよね。
― 演奏には、自分の持っている内面が全部出てしまうんですね。
村田 音楽を通して、人間としての内面を高めることが最大の目的だと思っています。個人的には、有名になろうとか一旗あげようではなく、違うところに目標をおいて音楽を学んで欲しいなと思います。
― そこで(笑)、音楽で成功する条件や秘訣はありますか?
村田 秘訣があるなら私も知りたいです(笑)。でも一つは積極性だと思います。待っているだけでは絶対駄目。駄目元で行動を起こすことが必要で、行動を起こすことにおいてはアイデアがすごく必要な時代だと思いますね。どんなものが今求められているのか、アンテナを絶えず張ってアイデアを出し、新しいものを発信していく必要があると思います。
― 今後、音楽留学をしたいと思っている方にアドバイスをいただけますか?
村田 先ほども申し上げましたが、語学は絶対に大事だと思います。それから留学する目的をきちんと考えてから留学された方が良いと思います。同年代の友達が行き始めたからと言って、焦って出ていくケースも多い様です。自分の目的が曖昧になってしまうと、留学自体を棒に振ってしまうことになりかねないと思います。慣れ親しんだ日本から離れて外国に住むということは、思ったより精神的な強さが必要だと思います。何のために留学をしたいのか最初にはっきりとした目標があって留学をされる方がいいと思いますね。
― どうもありがとうございました。
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